第5章 最終幕 またお前か
だっしゅの横をホゲーンが飛んで行き、そして異様な姿となったビッグボールが追い詰めていた。
なんだあれ!?
だっしゅはビッグボールの姿に恐怖し、体が震えていた。ビッグボールの姿は、だっしゅの心に何かを落とした。
みんな、どうするんだ!?
そう思った後、だっしゅは自分の今の立場を思いだした。
いや、心配する必要はないじゃないか。僕はもうボルレンジャーじゃない、だから関係ないことだ。
だっしゅはそう言い聞かせたが、胸にひっかかるものがあった。
そりゃそうだ、さっきまではボルレンジャーだったんだから……。
だっしゅは足を進めた。
別のことを思い浮かべることに必死になった。
一体どこに住もうか、それが今一番考えるべき問題点だ。
でもそんなことは、悩みごとではなかった。ビーッグという低い声に振り返る。そこにはホゲーンはもういなかった。
……僕には関係ないんだ。
そう言い聞かせ大袈裟に首をふると、足元にサッカーボールが転がってきた。それを拾い上げようとするだっしゅの視界に、男の子の足があった。
君のかい? そう言って顔をあげると、そこには誰もいなかった。
さらさらと木々を揺する音だけが聞こえ、他の雑音は何も聞こえなかった。
自動車の音もビッグボールの声も、何も聞こえなかった。時間が止まってしまったような。
「逃げるのか?」
だっしゅは声のした方に振り向いたが、そこには誰もいなかった。
静寂の中で風に揺られる木々の音だけがだっしゅを包んでいた。
「逃げてなんか」
そう言うと、背中から強い風がすり抜けた。
その風の先には、いつも現れる少年がいた。
「またお前か」
そう言っただっしゅに背を向けて、少年はホゲーンが飛ばされた山へと走り出した。
だっしゅは少年を追いかけていた。