第5章 第5幕 崩れる均衡
こんなにも効果があるならだっしゅにも……。
「ねぇ、忘れよ? 彼女の事なんて忘れてさ、一緒にいようよ」
積んであるダンボールから、ひとつの箱を取りだした。
「……それって彼女の持っていた箱」
「忘れてよ、だっしゅ。そしたらさぁ、楽になるから!」
私は気持ちを抑えられないでいた。
「……忘れる? なにを言ってるんだよ?」
そう私に聞いてきたあと、表情を変えてまた見えない誰かに声を上げた。
「言いたいことがあるならちゃんと言えよ! 黙ってたらわからないだろ! この箱? この箱が何だって言うんだ?」
私の箱をさっと奪った。
「うるさい! 僕はこの場所から離れるんだ! もうここにいるのがイヤなんだよ!」
そして手にした箱を、話している方へ投げ捨てた。
「そんなに欲しけりゃくれてやるよ! 僕の好きにさせてくれよ!」
ドアを開け、去ろうとするだっしゅの手を、私は掴んでいた。この手を離したらだっしゅはいなくなってしまう。
「待ってよ! なんで!? なんで、忘れないの!? ふられたんだよ! 苦しいだけなんだよ!」
もう気持ちを抑えることは出来ない。
「だっしゅのことが好きなのよ! ……だから……だから行かないでよ」
どうにもならないことは分かっていた。涙が溢れ、体が震えた。
「……ごめん」
だっしゅはそれだけ言って、私の手をそっと離し出て行った。力が抜け、震える体を両手で押さえる。
「情けないわね」
いつのまにか部屋にいたキャバクラの声が、私に向けられた。でも何も言い返すことは出来なかった。そんな気持ちでもない。もう何も考えられなかった。