表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/61

第5章 第4幕 箱

 部屋には私とだっしゅ、そして疑似体験モード中の彼女だけが残った。


「……やなんだよ、ここにいるのが。ここにいればいやでも彼女を見なければいけなくなる」

「彼女の事を諦めればいいでしょ」

「そんなことできない……好きだったんだ、ほんとに」

 好きという言葉が重くのしかかる。だっしゅには何気ない言葉なのかもしれないけど、私には意味がある言葉。手が震えるのがわかった。

 最初に戻さないと、だっしゅの気持ちは変わらない……。

「彼女を見るのがつらいのね。……なら忘れてしまえばいいのよ」

「忘れるなんて出来ない。彼女に挨拶して、僕はいくよ」

 だっしゅはそう言って、疑似体験モードのヘルメットを彼女から外した。


「あれ? 今、コシヒカリ食べていたはずなのに。どうしたんだろ?」

 だっしゅは寂しい目をしたまま、笑みを浮かべて言った。

「……実はさ、僕、宇宙に帰ることになったんだ」

「え、いつ?」

「これから」

「これから? ……さみしくなるね。お姉さんも?」

「……私はまだここにいるつもり」

「……もう行かないと。……諦めないで……がんばった方がいいと思うよ」

「……諦める? がんばる?」

「きっと想いは通じると思う。泣いてるのはイヤだからさ」

「……何言ってるの?」

「……好きな人がいて、その……振られてしまって」

「振られた?」と、彼女は私の方を向いた。私も首をかしげた。

「キャンディまでなんだよ。僕をからかってるの?」

「知らないよね? 振られたことなんて?」

 彼女は頷いた。

 知るはずもない、だって彼女は全てを忘れているのだから。

 と、だっしゅが誰もいない方を向いた。

「……またお前か。……それ? それがなんだというんだ?」

 そう言ってだっしゅは部屋の片隅に置いてある箱を指差した。ギクリとした。なんで気付いたんだろう。回収が来るまでの間、分からないように他のダンボールと混ぜていたのに。

 頭を抑えたまま箱に近づくだっしゅの前に、私は立ちはだかった。この箱を見られては……。

「どうしたの?」

「……見た覚えがある」

「ダンボールだから、どこにでもあるでしょ」

「……ちがう、どこにでもあるダンボールじゃない。……ちがうんだ、これは」

 そう言って手を伸ばそうとする。

 でもその手をぐっとつかんでいる彼女の手があった。

「……見ないで」

 彼女はいつもより低い声で言った。だっしゅを掴む手に力が入っている。

 だっしゅは困惑の表情を浮かべていた。

「勝手に見ないでよ!」

「……ご、ごめん」

 そう言って彼女はだっしゅの手を離すと、雑貨棚からガムテープを持ってきて箱をぐるぐるに巻いた。そしてそれを抱え込むとトイレに駆け込んでいった。

 だっしゅは心配した目で彼女を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
登場人物紹介登場人物
HONなび
Wandering Network
ネット小説ランキング
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
こちらもNEWVEL
こちらもカテゴリ別
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ