第5章 第3幕 だっしゅの落胆
ドアの奥には、深刻な顔をしただっしゅが立っていた。
「でた! でたぞ、宇宙人だ!」
リーダーと髪金が興奮状態で話す。
「ホゲーンでないのは悔しいが、本当に宇宙人はいたのか!」
「俺初めて見たよ、宇宙人なんて!」
だっしゅだよと言う暇なく、男性陣は話す。
「どことなく誰かに似ていますが、私も初めて見なした」
俺もだよと会話が飛び交う。
「だっしゅさん」
彼女が言った。そう、だっしゅだ。
「ん? ……あ、ほんとだ、だっしゅじゃないか!」
「ほんとだ!」
今頃気づいたのか。
「宇宙人だったのか!」
いや、そういうことじゃないでしょ。
こちらのハイテンションとは正反対に、だっしゅのテンションは低かった。右手に持っていたボルレンジャーの服を出して、だっしゅは言った。
「このコスチューム、返します」
「返す?」
「僕、ボルレンジャーを辞めます」
「……何言ってるんだ、だっしゅ?」
「辞めます」
だっしゅはきっぱりと言った。
「……なぜ?」
リーダーの緩んでいた顔が引き締まった。
「……戦う気をなくしたからです」
「……髪金、疑似体験モードをセットしろ」
髪金は急いで彼女の頭に疑似体験モードのヘルメットをセットした。今日の彼女は、豪華なごはんに囲まれている幻想を見ている。
「……この間まで一緒に戦ってきたんだ。いきなり戦う気をなくしただと?」
「……みんなでがんばってください」
「理由もはっきりせずに辞めさせるわけにはいかん!」
だっしゅは黙り込んだ。私にはなんで辞めたいと言うのか、想像がついた。
「ふられたから?」キャバクラが嘲るように言った。
「ふられた? ふられたとはどういうことだ!?」
「このコに」
キャバクラは楽しそうに言う。まるで見えない何かに誘導しているみたいに。
「あのラブレターか!」
「……それが原因じゃありません」
「じゃあ、なに?」
キャバクラはさらに聞く。だっしゅは黙っていた。
はぁ! というリーダーの変身の声が上がる。誰もそれを止めようとしない。でも化身に変わるかどうかの境目で変身は止まった。
「貴様なんかに変身するのはもったいないわ! 不機嫌だ! 辞めたければ勝手に辞めやがれ! ボルチェンジ!」
そう言ってリーダーはダンボールに戻っていった。
「……ほんとにやめるのか?」
髪金が確認する。だっしゅは黙ったまま髪金に微笑んだ。
「たかだか女にふられたくらいで……情けない奴。ボルチェンジ!」
それに続いてみんなが戻っていく。キャバクラが戻るとき私に近づき、がんばってねと言った。
応援する気なんてないくせに。