第5章 序 あいつとホゲーン
あいつはしつこく彼女に話しかけていた。こういう諦めの悪いところは尊敬していいのかどうか。
「なな、ホゲーンって知ってるか?」
あいつから、前に言っていた謎の言葉が出た。彼女も聞いたことがないようで首を振っている。
首を振る分、会話が出来たということで、少しは前進と行ったところかな。
「なぁ、コゲーンってなんだよ」
僕は前にはぐらかされた言葉の意味を聞いた。
「ホゲーンだよ。知らないか? 噂なんだけどさ、あの裏山にでっかい怪物がいるんだって! それがホゲーンなんだ!」
「……うそ臭」
「そんなことない! どうも裏のじいちゃんが見たことあるらしいし」
限りなくうそ臭い。そんな怪物いたら、みんな黙ってないだろうし、そもそも裏のじいちゃんって、そんな人見たことないよ。
「探しに行かないか!?」
あいつは興奮気味に聞いてきた。
「裏山って入ったらいけないって言われてるだろ」
「ますますそれが怪しい! ダメだっていうことはきっと何かあるんだよ! 行こうぜ!」
あいつは目を輝かせて誘ってきているけど、僕は行きたくなかった。
めんどくさいというのと、入ってはいけないと言われている所に入る罪悪感と、妙に興奮気味なあいつの顔から嫌な予感がしてたまらなかったからだ。
ただあいつの「逃げるのか」と言う言葉に、僕は彼女を見た。
彼女は本を閉じて、立ち上がっていた。
――これは行かなきゃか。
僕はあいつに諦めの目を向けた。
少なからず彼女は、前みたいに無視しなくなっていた。あいつに不思議な力があるのか、ただ強引なのか。
「よし、そうと決まれば行くぞ」
きっとあいつはそう言った。
「……うん」
きっと僕はそう答えた。
青く澄んでいた空は、聞き慣れた下校放送の中、少しばかり暗くなってきていた。