第4章 第11幕 髪金と私と
昨日の事は何もなかったように、いつもと同じような一日が流れている。
ただ、リーダーは上層部への報告、博士は爆発したボールダンの修理に大忙し、キャンディーさんは修理費の見積りについて業者との打合せ。
元凶であるロボは全てを忘れたようで、昨日のことさえ思いだせないようだった。3台目だからと意味不明なことを言っている。
とくにすることのないトロ子と髪金は、部屋でババ抜きをやっていた。
「くそ」と髪金の声が響く。トロ子はうれしそうな表情を浮かべるでもなく、トランプを整理し始めた。
トロ子は髪金に負けない方法を知っていた。
髪金はババを抜こうとすると必ず表情が緩む。だからそれを見ていれば、ババを抜く事はない。
トロ子はトランプをきりながら、髪金の悔しそうな顔を見ていた。
こんなに負けてるのに髪金は勝負をやめない。一度くらい負けないと、いつまで続くかわからない。ただ一度勝つと、何度もやろうとする。
まだまだ続くであろうババ抜きに、ため息がもれた。ただ、そうは思いながらも、こうやってババ抜きをしているのは嫌いではなかった。
トランプを配っていると、ふと髪金が呟いた。
「あの時のリーダー……かっこよかったな」
同じ数字のトランプを捨てながら、髪金は続けた。
「俺、リーダーのこと最近疑ってたんだ。……でも、やっぱり俺が憧れたリーダーだったと思ったよ。……なぁ、俺は将来すげー活躍して、リーダーみたいに人を助けてるか?」
髪金は、いつもより真剣な顔をしていた。
私は「秘密」と答えておいた。
「秘密ってなんだよ、教えてくれよ」
「助けてる」
「ほんとか!?」
「かも」
「なんだよ、それ!」
「予知なんて当たらないから」
髪金は最初きょとんとしていたけど、やがて「そうか」と笑って、私のトランプを引いた。そう、今日10回目のババを。笑っていた顔が一瞬で難しい顔になった。
髪金は、体の裏でカードをシャッフルし、前に出す。
「そういえば、三つ編み、切れちまったな」
「……そのうち伸びる」
なんだかな、鈍感です、はい。
トロ子は思わず笑ってしまった。
「何がおかしいんだ?」
「なんでもない」
髪金が持っている左のカードをつかんだ時、髪金は言った。
「いつもそうやって笑っていろよ。そうの方がかわいい」
頬が一気に熱くなった。もうなにがなんだか。動揺して髪金の表情も見ずに引いたカードはババだった。
「あ」
「チャンス到来!」
髪金は目を輝かせていた。