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第1章 第2幕 ボールダンVSホゲーン

 俺はずっと正義のヒーローになりたかった。


 小さい頃からの夢、夢を叶えるための努力、目立ちたいがための金髪、全ての集大成がボルレンジャーになったことで表れている。

でもどこかしっくりこない。


 なんで戦っているのか。

 

 そもそも守ろうとしているビッグボールってものが何なのか分からないし、ホゲーンだって妙に愛くるしく『悪』って感じがしない。ましてやダンボールをくっつけて作ったロボットなんて、俺の求めていた理想のヒーロー像とはかけ離れている。

 

 理想のヒーローとは?


 よくわからない。

 ただ目の前にホゲーンがいる。そしてビッグボールを守る立場に俺はいる。


 何を守るため? ビッグボールを守る事は世界を救うこと?


 よくわからない。

 わからないことだらけだが、今は戦うしかない。売られた喧嘩は買ってやる、俺の血潮を信じるしかない!



   *



「なに風穴あけてんねん!」

 髪金の胡散臭い関西弁と共に、部屋のパラボナアンテナから発射されたミサイルが、ホゲーンめがけて飛ぶ。

「くらえぇ!」

 そう、彼こそがミサイル担当のボルレンジャー十傑の1人、自称高スペックの最新鋭ロボ『ロボ』である。


 が、突っ込んでくるロボを、まるでやぶ蚊を払いのける仕草のように、ホゲーンは片手一振りで空の彼方にはじいた。

「ああぁぁ……」

 遠ざかるロボの叫び声。

「ロボ、回収間に合いません」

 仲間であるロボが吹っ飛ばされたというのに、妙に淡々としたトロ子の状況説明。

「そのうち戻ってくるだろう」

 リーダーの判断はさらに冷酷だった。

 グッバイロボ、また会う日まで。


 やばいな。

 髪金はこうなることを予想して編み出していた、とっておきの必殺技を思い浮かべた。

『最強』は気付いているだろうか。

 最強を見ると、最強も俺を見ていた。俺の心配とは裏腹に同じ事を思い浮かべていたようだ。

「やるか、髪金!」

「やるとは何だ!?」

 リーダーが聞いてきたが、今はアホに説明している暇はない。

「いくぞ、ボールバスターだ!」


 ボールの声と共にボールダンが走り出す。

 走ることで生じる振動が、離れたこのアパートにまで届く。驚くべきは、その振動を上回る振動が部屋を襲ったことだ。

「なんだ!?」

 全員が振り返ると、そこには血管の浮き出た最強がしこを踏んでいた。

「女の子がしこ踏んじゃだめ!」

【女=可憐】のイメージの塊のキャンディが最強の変貌を嘆く。

 しかし最強のしこは激しさを増していく。


 俺はというと、ボールダンの速度が落ちないように、操縦桿を握っていた。どんどん加速しホゲーンに近づいていく。

 またも放たれた波動砲で体に穴が空いても、その加速が失速することはなかった。

 動力部はそこじゃないさ。

 ホゲーンの10m手前まで迫った時、最強のしこも準備が完了していた。


「電光石火、ボールバスター!」

 筋肉質な体とは裏腹に、かわいい声が部屋に響く。

 どうもこの声だけはな……最強に対する俺の唯一の不満だった。


 ズドーン!

 今までの中で一番大きな振動が部屋を襲い、マオーというホゲーンの鳴き声が響いた。

 モニターにはバックドロップを決めたボールダンが映し出されていた。


「よっしゃぁ!」

「街の損傷率25%を超えました!」

「やりすぎだ、髪金、最強! どうやって補償する気だ!」

 俺はリーダーを睨みつけた。

 補償、補償って、世界を救うことが大事だろ! 俺を救ってくれた時のリーダーは、こんな正義のヒーローじゃなかったはずなのに、くそっ!

 俺はやり場のない想いをぐっとおさえ、ホゲーンへのダメージを確認するため、リーダーを睨んでいた目をモニターに戻した。

 が、映し出されていたのは、ホゲーンにバンソウコウを貼っているボールダンだった。

「なぬ!?」

 ハッとし、振り返った。

 そこには安堵の表情を浮かべているキャンディがいた。

 操縦プログラムがホゲーンの応急処置にすり返られていたのだ。

 このかわいもの好きが!

「ホゲーン、元気120%、完全復活です」

「良かった♪」

「良くない!」

 悪いことしてないもんと言わんばかりのふてくされた顔のキャンディ――何故仲間にいるのか。

「またね、ホゲーンちゃん♪」

 モニターでは元気120%のホゲーンが、飛び立つ準備をしていた。

「逃がすか! 最強、ボールキャノンだ!」

「これ以上街を壊させてはいけない! だっしゅ、逃走モードを!」

 逃げるだと!? 売られた喧嘩から逃げるわけにはいかねぇんだよ!

 俺が操縦桿を握ると、またもメルヘン女が邪魔をしてきた。

「ホゲーンちゃんを傷つけちゃダメ!」

 とっさにオレの操縦桿を奪おうとする。その力は、普段筋トレを欠かさない俺でもおさえられないものだった。

 なんてパワーしてやがるんだ、この女!

「こら、方向が変わるだろうが! 放せ、このメルヘン女!」

「いや!」


 髪金とキャンディが操縦桿を奪い合っている間、風穴が開いたボールダンは、街の中でふらふらとしていた。

「何かしでかすぞ!」

 人々の断末魔は最高潮に達していた。


 そんな街の情勢を知らないアパート内では、最強が砲丸を担いでいた。

「いくぜ、ボールキャノン!」

 最強の声とともにその砲丸は放たれ、そして勢いよく壁を崩壊させた。

 修理費がかさむと涙目のリーダー。

 ちなみに最強の動きがボールダンの動きに連動しているわけではない。そのため壁の崩壊は技の発動に一切関係のない代償なのである。しいて言えばこれも雰囲気ってやつだ。


 しかしそんな事はどうでもいい話だった。彼らにはもっと恐ろしい現実が迫っていた。

 髪金とキャンディの操縦桿の奪い合いによって、ボールキャノンが放たれた際のキャノンの方向は、アパートを向いていたのだ。

 ……やっちまったぁ。

 誰もが、後悔の念を浮かべた。

 が、不幸中の幸いか、ボールキャノンはアパートのぎりぎり横を物凄い轟音で通過し、裏山を陥没させたところで止まった。

 ふいーっというかすれたクールの口笛が、緊張した戦いの空気を一気に和らげた。


「ホゲーン、離脱します」

 しかし追いかけるほどの戦意は、彼らにはもう残っていなかった。


 青空の中、まるで天使のようにホゲーンが羽ばたいていた。

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