第4章 第4幕 博士の意地
ただ現実は夢に戻ろうと最強さんを動かした。ロボを直そうと、博士を呼び始めてしまったのだ。
「呼ばないで」という言葉に最強さんはなんで? と聞いてくる。私はそれ以上何も言えなかった。
「博士、博士」と最強さん。最強さんの5度目の博士という言葉に、目をこすりながら博士がダンボールから出てきてしまった。落ち着いた緊張が、また私を襲い始める。
博士はチャーハンとリピートしているロボを見たあと、最強さんを見た。
「壊しちった」
最強さんのあどけなく言った言葉に、博士の頬が赤らんだ。最強さんのような声に女の子は憧れてしまうのかもしれない。
「直せるか?」
「見てみないとなんとも」
直さないで、と言いたい。
「気をつけろ、ロボは高スペックらしく、セロリが466個でカロリーが96メーターらしいぞ?」
「……確かにそんなので動いたら驚きだよ。うあぁ、よくこれで動いてたもんだ。中身ほとんど空じゃないか」
博士が中をいじっている間、ロボはチャーハンとまだ言い続けていた。私はこのまま直らないようにと祈るしかなかった。
そのうち博士は、チャーハンと繰り返すロボを不快に思ったのか、うるさいと言ってロボ内の何かを押した。ぷすんという音と共にロボの動きが止まった。
「……殺したな」
「電源切っただけだ!」
「殺したロボットの中をかきずりまわす博士。公園に散らばったロボの部品。警察の必死の捜査もむなしく、犯人がわからぬまま殺人は連鎖していく。しかし目撃者である同僚の最強は……」
「直さないよ」
「ごめん」
その言葉に博士はまた頬を赤らめた。
修理は難航しているようだった。ただ難航すればするほど、博士の闘志はみなぎっていった。このままだと直ってしまう、それくらいの気迫だった。
博士のメガネがきらりと光ると、ロボの中から怪しげな本を取り出した。
「なにこのオイルまみれの本。……私の配線、素敵でしょ? 俺のピストン、びんびんフル稼働だ。あの最新機種が初脱ぎ……」
博士は汚いものでもさわったようにその本をごみ箱に捨てると、何かに気付いたのか、もう一度メガネが光った。その光に連鎖するように、ロボの目も光り、そして――動き出した。
直ってしまった……。
「さてロボ、直したついでに聞くけど、それだけ中身が空なんだから、改造してみようと思わない?」
「改造!? ダメです、私は高スペックロボ! 改造なんてしないでください、いやしてください!」
「どっちだよ!」
「もてたいんです!」
「ロボットなのに!?」
「博士さんじゃ出来ないですか?」
ロボも頭が回るらしい。案の定、博士は顔を真っ赤にして興奮状態に陥っている。
「僕は何だって出来る、見せてみなよ、ロボ!」
ニヤリとしたロボが背中を向けるのが早いか、博士は背中をバカッと開け、改造し始めた。
僕に不可能はないやら、親父より優れてるやら、ぶつぶつ言いながらロボをいじり始める。ロボにアイビームをつけたのは博士ではないのか、と疑いたくなる。
みたび博士の眼鏡が光ると、勢いよく背中を閉め、出来たと言ってロボを起動させた。
心なしか動きがシャープになったロボから、生まれ変わりの産声があがる。
「こんにちは、ロボです」