第4章 第3幕 ロボVS最強さん
「何してるんだ、ロボ」
非常ボタンを押そうとしていたロボは、最強さんの言葉に慌てて振り返った。最強さんが不思議そうな顔をして見ているのに気付いたのか、体を反転させて、とぼけるように最強さんに返事をした。ただその声は、驚きが冷めないのか、上ずっていた。
「な、なんでもありません! ……最強さんこそ何を?」
「トレーニングだよ、トレーニング。ロボも自分を鍛え……ああ、改造したらどうだ?」
「改造? それはだめです! 私はCPU466MHz、メモリ96MBというかなり高性能なスペックで出来ておりまして、勝手に改造したら怒られてしまいます。は! 思わず私がロボットであることを話してしまった」
「秘密だったのか?」
「そう、私は偉大なるスーパーロボットのパーツなのです。知られたからには仕方ない、最強さんを倒すしかありません!」
そう言うとロボは両手を前に上げ、狙いを最強さんに定めていた。最強さんは首を傾げ、両手を組んだままだ。ノーガードの無防備状態。アイビームの威力が頭をよぎる。危ない、最強さん!
そう思うより早く、ロボの声がこだました。
「偉大なるダブルロケットパーンチ!」
派手な名前とは裏腹に、ぽい〜んと飛び出した両手が最強さんに当たり、ころころと転がった。最強さんは微動だにしていない。
一瞬の間が包む。
まさか、時限爆弾!? 私は咄嗟にダンボールを盾にしゃがみこんだ。
ただ耳に届いたのは、カシャン、カシャンというロボの歩く音。慎重にこっそり覗くと、ロボが転がった両手に近づいて、自分の腕にはめているところだった。
……どうやらあれ以上、何もないらしい。
「いてーな」
とロボを叩く最強さん。おそらく最強さんとしては手を抜いたつもりなんだろうけど、それでもロボを破壊するだけの力を秘めていた。
ぼーんと爆発し、ロボは倒れた。そしてなぜか「チャーハン」と繰り返ししゃべり始めた。典型的なダメダメロボットだった。
――本当にロボがあんな事を起こすんだろうか。
私は自分の夢を疑いたくなった。
「まずいな、壊しちまった」
――壊れた?
最強さんの何気ない言葉を、私は心の中で繰り返し言った。
床には煙をあげるロボが横たわっている。ギギギと、ギアがスムーズに動かない音が響く。私はダンボール裏から飛び出し、ロボに近づいた。
「トロ子、いたのか」
横たわるロボは、チャーハンと繰り返すだけで微動だにしなかった。
「どうしたんだろうな?」
最強さんは不思議そうな顔をしている。
「ひょっとして俺?」
私は黙っていた。
思わぬ形で訪れた事態の急変。
――このままなら夢は現実にならない。
変わり始めた運命の兆しに、張り詰めていた緊張がすっととけた。