第4章 序 あいつとの思い出
放課後、あいつは校庭の木の下に座っている彼女に話しかけていた。あいつはやると言い出したことに対しては、積極的な奴だった。
「いつも何見てるんだ? みんなといっしょに遊べばいいのに」
そんなあいつの言葉に、彼女はちらりと顔を上げ、また手元の本を読み始めた。
「どうだ、サッカーとか興味ないか?」
女の子に対してサッカーはないだろう……。
欝陶しく感じたのか、彼女は読んでいた本を閉じ、校門の方へ行ってしまった。遠ざかっていく彼女をあいつはじっと見ていた。
「……うざがられたかな?」
「サッカーってのがな」
「面白いぜ?」
「そういう問題じゃない」
僕は小さくため息をつき、ぼそりと言った。
「無理だよ、きっと誰とも関わりたくないんだよ」
『一人世界』の住人はそういうものだ。
僕は確かにあいつのおかげで『一人世界』から抜け出せたけど、誰でもそうなるとは限らない。そっとしておいた方がいいことだってある。
ただあいつはそれを認めなかった。
「俺は可能性を信じる」
「可能性?」
「ここで諦めるわけにはいかないんだよ。諦めることは逃げる事と同じだ!」
こういうやつだった。だからいつも逃げていた僕は、あいつに惹かれたんだ。
「……あのコの事、好きなのか?」
僕はきっとそう聞いた。
「そんなわけねーよ!」
きっとあいつはそう言った。
その日もやはり青空が広がっていた。