第3章 第7幕 ホゲーン再び
部屋に集まったみんなは、モニターで状況を確認していた。ホゲーンちゃんがゆっくりと移動しているのが映し出されている。
「ホゲーン、5分後にビッグボールへ到着します」
トロ子がホゲーンちゃんの現在位置を告げる。ボールダンの出動時間を考えるとギリギリな状況だ。
「まずいな、ボールフォーメーションだ!」
焦りがわかるリーダーの掛け声に、まだ震えている体をぐっと抑え、自分の席についた。
キャバクラはまだ私を見ていた。その視線から逃れるように、モニターに目を移す。
モニターでは、ダンボールからボールダンに変形する映像が映しだされている。そして片隅にホゲーンちゃんが映る。いつもならかわいいと思うホゲーンちゃんも、今日はそういう気分では見れなかった。私の気持ちは揺らいだままだった。
――フルエガトマル? カノジョへフクシュウ?
「波動砲、きます」
ホゲーンちゃんは大きくのけ反ると、光輝く波動砲を放った。
ボールダンがさっと両手を前に構えると、大きなシールドが展開される。前回貫通された苦い出来事から強化されたシールドにより、モニターが映らなくなるほどの閃光を発して波動砲を防ぐ。
してやったりのリーダーだったけど、閃光の余韻が消えたモニターでは、ホゲーンちゃんがビッグボールの横に位置していた。
「波動砲は囮だったようだね」と、クールの鳴らない口笛が息をもらす。
ホゲーンちゃんはビッグボールの側面に思いっきり体当たりをし、その衝撃でビッグボールは大きく傾いた。
それを見て、慌ててロボを発射するように指示が飛ぶ。部屋から発射したロボは、ホゲーンちゃんとはかけ離れた方向に飛んでいった。私はロボの照準を合わせるのを忘れていた。
何をぼさっとしているというリーダーの言葉に、私はとりあえず手元の操縦桿に手をそえた。何かをするほどの心のゆとりは、私にはなかった。
ビッグボールの側面は、ホゲーンちゃんの攻撃により少しずつ凹んできている。ホゲーンちゃんから発せられるマオーという声は、まるで何かを伝えるようだった。
「……その名を……呼ぶな!」
キャバクラが叫んだ。髪を掻きむしり、異常なほどに苛立ちをあらわにしている。その表情には、さっきまでの不気味なほどの冷静さはない。
「こうなったらボールボイスよ!」
と、キャバクラはボールダンの操縦を自分だけで行えるようにシステムを移行した。ボールダンの胸が開き、巨大な砲撃が現れる。
「市街地の中で使うのは危険だよ!」
博士の指摘を無視してキャバクラは操縦を続けている。
「照準あわせ!」
みんながキャバクラを押さえ込もうとする。ただそれより先にキャバクラの手は、発射ボタンを押していた。
ボールダンの砲撃から強烈な渦が放たれ、空間に歪みを生じさせた。キャバクラの消えろという声が部屋に響く。
強力な引力がホゲーンちゃんと街を飲み込もうとする。ギリギリと頭に響く重い音をたてながら、その渦は収縮していく。
ズルズルと渦に引き込まれているホゲーンちゃんは、体をのけぞり、そして波動砲を地面に放った。波動砲の反動で、ホゲーンちゃんの体は浮き、そのまま空へと舞い上がる。
ホゲーンちゃんを逃した渦は、何軒かのビルを吸い込み、1点に集中するように消えていった。
ホゲーンちゃんは再び降り立つことなく、そのまま青空を旋回し、羽ばたいていった。
当然、戦いのあとの部屋ではリーダーが怒りをあらわにしていた。
「何故使った、キャバクラ!」
そんな状況でも、キャバクラは小さく微笑んでいた。
「何がおかしい!」
キャバクラの胸倉を掴むリーダーの手を、髪金が振りほどく。
「俺もキャバクラの行動には賛成だ。あれくらいしないとこの闘いは終わらない」
「しかし限度というものがだな……」
「躊躇して大惨事になったらどうするんだよ! 何びびってるんだよ、リーダー! 俺を救ってくれた時はもっとかっこよかったぞ!」
「髪金……」
髪金は唇を噛み締め、踵を返してダンボール裏に戻っていった。
キャバクラはその日から2週間謹慎処分になった。髪金とリーダーは目を合わさないでいる。
ボルレンジャーの中で信頼が崩れ始めていた。