第3章 6幕 キャバクラのささやき
「どうするの?」
キャバクラが意味ありげな笑みを浮かべ、じっと見つめてくる。まるで私の心を、見透かしているようだった。
キャバクラから視線を外し、
「もう完全に私には興味を持ってないみたいだからね。協力することにしたの。そういうの慣れてるしね。次よ、次!」
と、やせ我慢いっぱいに返事をした。
「……本当にそれでいいの?」
いいわけない、でも……。
「いいこと教えてあげようか? ……彼女の好きな人のこと」
その言葉に心が揺れる。
―― 私ってイヤな女。
協力するとか言いながら、それはまったく本心じゃない。自分の卑しさがとても嫌だ。
「男共と違い、あれが彼女からのラブレターじゃないのは分かってるのよね?」
それは私がだっしゅに言ったことだ。それなのに改めて聞くということは、何かのために強調したんだ。そうわかりながらも、キャバクラの話に耳を傾けてしまう。私の想いはキャバクラに捕らえられていた。
「彼女の好きな人はだっしゅじゃない。でも、すごく身近な人」
「……なんで知ってるの?」
キャバクラは微笑んでいた。私が話に食いついたことを感じたのだ。
怖い、正直そう思った。キャバクラの考えていることの不明確さ、それと自信。
「彼女の日記にこう書いてあったわ」
「勝手に読んだの!?」
私の言葉を無視するように、キャバクラは続けた。
「たまたま寄った喫茶店の店員が、声を掛けてきた。彼女に見覚えはないけど、小学生の頃、同じ学校だったと。聞き覚えない? この話」
確かにどこかで聞き覚えがある。恋愛小説? 思いだせない。
ただキャバクラの次の一言で、それが何を意味するか理解できた。
「あなたが一番知ってるはず。……だってあなたが作った話ですもの」
そうだ、それは私が疑似体験モードで作ったシナリオ! 突然の出会い、一目惚れというラブストーリー。
―― まさか本気で好きになってしまうとは……。
「つまりあなたの手中にあるわけね、彼女の明暗は」
明暗? 手中?
「悔しくないの? だっしゅを取られて。復讐したくないの?」
キャバクラの言葉に嫌悪を抱いた。そんな気持ちを持ったことないし、持ちたくもない。恋敵とはいえ、そこまでは考えない。それを平然というキャバクラは危険だ。
「彼女がいるせいで、またあなた失恋したのよ?」
失恋という言葉に、カタカタと体が震える。私はまだ立ち直れないでいる。
「……話ついでに、キャンディーのその失恋への怯え、消してあげようか?」
「え?」
―― コノフルエヲ、ケシテクレル?
私はキャバクラの目に吸い込まれていた。
不適に笑うキャバクラの意図なんて、もうどうでも良かった。失恋の怖さに怯えて体が震える、これから解放される。私はキャバクラにすがろうとした。
ぐらっと部屋が揺れる。遠くでマオーという声が聞こえる。
「! これからと言うときに!」
部屋中に鳴り響くサイレンの中、苛立つキャバクラの叫びには、悔しさが含まれているようだった。