第3章 3幕 HE IS エンガチョ
みんな、髪金を見ていた。髪金は引きつった笑みを浮かべながら、額に汗をかき、がくがくと震えている。
トロ子は予知夢を見ることができた。みんなそれを知っていたし、その正確さを疑う余地はなかった。
ただトロ子は気付いていないのかもしれないけど、予知夢を見るとき決まって寝言をいう癖があった。その寝言が髪金の死を予知していたから、ババ抜きをやっていた私たちの手は完全に止まってしまい、髪金にいたっては今引いたババを落とすほど動揺していた。
この空気を作った当事者であるトロ子は、むくっと起き上がったかと思うと、無言のままダンボールの裏へ入っていった。
「…聞き違いだよな?」
恐る恐る髪金が聞いてきた。返答に困っていると、リーダーが情もなく言い切った。
「ご臨終様」
「殺すな!」
「トロ子の予知は百発百中だしな」
「今のうちにお礼を言っておくよ。僕たちを救ってくれてありがとう」
クール、その前にあんたも死んだでしょ。
「なぁ、どうしたらいいと思う?」
髪金はかなり困惑しているのか、おどおどしている。
「ねぇ、見て!髪金の保険で今までの借金が返済できるわ!」
「ということは、ボールダンに追加武器が!?」
「ちゃんとした部屋を借りるとかね」
なんてメルヘン女とバカにする仕返しに冗談を言ってみたけど、当事者としては気が気じゃないだろう。髪金の顔からは完全に血の気がひいていた。
「どうしよう、クール」
助けを求めた髪金の手を、クールは機敏に体を反って避ける。髪金の視線に、リーダーも慌てて立ち上がった。
「その不幸をうつさないでくれ!エンガチョ!」
二人は我先にと部屋に戻っていった。髪金は涙を浮かべながら「待ってくれよ」と追いかけた。
ひと騒動が起きた部屋は、私とキャバクラだけになった。
髪金を救わないとね、と話しかける。けど、キャバクラはまったく興味がないのか話をガラリと変えた。
「…だっしゅはこの部屋のコのことが好きなようね?」
そう言って見つめる彼女の瞳は、何かを捕らえるような鋭さを持っていた。
「どうするの?好きなんでしょ、だっしゅのこと」
「ば、バカな事言わないでよ!」
強く否定したけど、どもってしまって、明らかに動揺してる事がバレバレだった。
「私ね、キャンディー達と彼女が話しているのを見ていたのよ」
そう話しかける彼女は、何かを企んでいる怪しい表情に変わっていた。