第3章 2幕 髪金の笑顔
「よし、こっちはOKだ」
「そうですか、では始めますか。こっちには爆弾があるんです!」
「考え直すんだロボ」
さっきまでのやりとりが再開された。たださっきまでとは違い、作戦決行のためにだいぶ芝居じみたものになっていて、緊迫感はよりなくなっていた。リーダーの言葉はただの棒読みだし、最強さんに関してはセリフのメモ紙すらだしていた。挙げ句、みんなの目線が捕獲係であるクールさんに向けられていて、定位置に着くまでの時間稼ぎであることがバレバレだった。
幸い相手がロボのおかげか、気付かれてはいないみたいだけれども。
捕獲位置に網を持ったクールさんが着くと、髪金が作戦決行のウインクを送ってきた。ただ逆の目も閉じていて、ウインクというより瞬きに等しかった。
「ロボ、オイルだ!」
髪金が投げたトラップに、案の定、ロボは猫のように飛びついた。オイルでじゃれているロボに、クールさんがさっと網をかける。捕獲完了。
「騙しましたね!」
「騙される方が悪い。少し動かないでいてもらおうか、ポンコツ」
髪金はショートさせるために、ロボの頭から水をかけた。プスプスという音と共に、ロボから黒い煙が上がる。
「こんな簡単にいくとはな」
リーダーは胸をなでおろす。みんなも安堵の表情を浮かべた。
ただそんな安堵の時間もつかの間だった。
ロボはすくっと立ち上がり、私達を見た。
「その程度の水量じゃやられませんよ、アイビーム!」
ロボの目からまばゆい光線が放たれる。髪金は寸でのところでそれを交わしたけど、よけた光線がクールさんを直撃した。激しい閃光と音をあげ、クールさんはバタンと倒れた。
「なんだあれ!?」
最強さんが驚きを口にする。
「私は偉大なるスーパーロボットのパーツ! こんなことではやられませんよ!」
次に放たれたビームは、部屋の壁に大きな穴を開けた。ロボは殺戮兵器と化していた。
みんなその威力に危険を感じたのか、誰かの後ろに隠れるように、一歩一歩と下がっていった。絶体絶命。
そして先頭が私になった時、次のアイビームが放たれていた。
私は何も出来ずにいた。ただ迫り来る光線をじっと見ていた。私の前を遮る影を見ていただけだった。
激しい閃光に目を閉じる。
一瞬見えた影に不安がよぎる。
ビームの閃光でまだおぼつかない視界に、私の前で血だらけで立っている髪金がいた。焦げたような匂いとその真っ赤な体は、絶望以外の何物でもなかった。
みんなが髪金を見ていた。見ることしか出来なかった。そしてその現実を受け止めざるを得なかった。
――また助けられた。
その瞬間、涙が溢れてきた。声をかけたくてもかけられずにいた。
うつろな目をした髪金は、私に振り返りかすかに笑った。
「ほんとハゲてるな、背後霊」
ぼんやりと見えるその笑顔は、いつものバカなことばかりしている時の笑顔と同じものだった。
髪金はロボに向かってまっすぐに、ただまっすぐに走っていた。遠く、遠く離れていった。
そして最後のアイビームの音が響いた。
髪金はよける事もせず、それを受け止め、ロボにしがみついた。
「これくらいの量ならさすがに壊れるだろ? ……あっかい、あっかい水をたっぷり飲めよ」
ボンという音と共に真っ赤になった髪金と、真っ赤になったロボは重なるように崩れた。