第2章 第10幕 戦、勃発しました
髪金の突然のラブレター争奪戦の参加に、部屋の空気は重くなった。
「どういうことだよ、髪金。さっきは僕のだって言ってくれたじゃないか」
「宛名がボールダンなら話は別さ、俺もラブレター欲しいし」
「三つ編みのコだろ、髪金は!」
「ハハハ、だっしゅ君、幸い彼女の髪はある程度伸びている。三つ編みにすることくらい簡単なんだよ!」
そうさ、彼女の髪を俺がくるくる三つ編みに結わってやるのさ。この勝負、いける!
「込み入ってるところ悪いが、そのラブレターが君達宛てである可能性は0%だ」
「お前が0%だ!」
ちっ、諦めの悪いやつらめ。まぁ、無理もないか。一生に一度訪れるかのチャンスなんだからな。しかし、このままでは埒が明かないな。
他の二人もそう思っているのか、自然と3人とも右手の拳を前に出し、握り締めていた。
「やるか?」
「じゃんけん!」
じゃんけん、単純でいてそして平等な勝負を喫する時に使われる手法。
が、平等と思えながらも、実はある程度の傾向がある。20年近くじゃんけんを行ってきた俺にはわかる。そのデータを駆使する時が来たのだ。
チョキ。なぜか以外に高確率で勝てる。悪くてもあいこにおさまることが多く、あたりさわりがない。
パー。よく負ける。負けるイメージがある。パーという響きも良くない。
そしてグー。これは男の手である。本命のチョキを倒せる唯一の手だ。しかしリスクとしてパーに負ける。パーにだぜ!? これは屈辱的だ。
無難にいくならチョキだ。しかしなぜか2人はチョキを出す気がする。パーを出すべき男、クールが今日は勇気を出してチョキを出す気がする。さすがに男のグーまでは出せないだろうが。
対人の分析のほか、運的にも俺は答えがひとつである事に誘われていた。人差し指で作った左手のしわも丸みを帯びていたのだ。俺のじゃんけん神が勝てる! 勝てる! と訴えている。
ここは……グーだ!
「後だしは無しだからな。ズルするなよ」
クールが満面の笑みを浮かべている。
「その言葉、お前に直接返す」
「行くべき所に行くのさ、手紙は」
だっしゅのその言葉に全員が自分に親指を向けた。
「なら俺だな!」
こいつらはチョキだ。必ずチョキだ。俺は勝てる。男のグーで勝てる。あとは最後のパワーを集めるだけだ!
俺は集中するように目を閉じ、ゆっくりと両手を天に掲げた。これにより俺は確実に勝てることになるのだ。そしてゆっくりと目を開ける。が、だっしゅとクールも両手を挙げていた。まさか!
「おらに元気をくれ!」
俺が言葉を発すると共に、二人とも俺と同じく「元気をくれ」と発した。
なんてこった、こいつらも元気玉使いか。
「僕の元気ダマだぞ!」
「貴様こそ俺の元気玉を!」
この勝負、思ったより苦しい戦いになりそうだ。いつも何考えているのか分からないだっしゅの目は燃えているし、クールですら好敵手に見える。認めたくないものだな、ラブレターの力というものを。
しかし、気持ちで負けるわけにはいかない。気持ちで負けたら勝負も負ける。俺は勝てるんだ!
「勝負だ!」クールが声を裏返して叫んだ。
俺の剛力グーが頭上から振り落とされる。行け、男のグー!
そして二人も頭上から無難チョキを振り落とす。勝負あった! そう思えた。
が、そこには俺と同じ剛力グーがもうひとつあった。最もパーであるべき男、クールが震える手を握り締め、男のグーを出しているのだ。
そして驚くべきは、もうひとつの手がパーを出していることだった。もっともイケてないパーを出しているのだ。そしてそれに負けた俺は猛烈にイケてない男だった。
僕の勝ちだ! というだっしゅの喜びの声が、俺の胸の高鳴りを束の間の夢へと変えた。
BYE BYE MY LOVE