第2章 第9幕 戦、勃発します
が、同情している暇は無い!
クールと過ごすことの方がどれだけつらいことか。このままだとクールのどうしようもない決めポーズに、俺もサポートとして加わることになるのだ。
「さあ、渡したまえ、だっしゅ君!」
「僕のだ!」
おいおいクール、お前そんなこと後でいいだろ!? お前、俺がくっついている人生を過ごすのいいのか!? 前足が出たヘラクレスみたいなんだぞ!? ……いやクールなら「いい」と言う気がする。「クールだよね、僕達」と言う気が大いにする、こいつアホだから。
この窮地を救ってくれる救世主を探したが、だっしゅはクールとのラブレター争奪戦に必死だし、トロ子は面倒くさそうにこっちを見ている。今この状況を打破できるのは自分しかいなかった。
「くそ!」
その時、クールの一言が俺に真の力を与えた。
「宛名がボールダンってことは、僕のって可能性もあるだろう!」
「せいやぁ!」
俺の頭は抜けた、いや抜いた、ぶちぶちぶちという音と共に。
その音にみんなが俺を見た。そして若干の沈黙があった。
「……大丈夫か、髪金」
俺を見るだっしゅの目が痛々しかった。
トロ子も黙ってはいるが、その目には哀れみが含まれていた。
クールは俺を指差しながら腹を抱えて笑っていた。
想像はついた。確認しなくてもすべてはわかった。だが、一応触ってみた。
あるべきものがそこにはなかった。あるべきものはクールの胸に生えていた。俺はその時どんな顔をしていたんだろう。悲しみの表情? いや違うな。そう、こういう状況でも俺は絶望していなかったのだ。髪が抜ける事よりも、笑われて恥をかく事よりも、もっと大事な事がそこにあったからだ。
だから俺はその時、素敵な笑みを浮かべていただろう。人生の中で最高の笑みを浮かべていただろう。
「そう、そのラブレターはだっしゅのじゃない」
そう、だっしゅのじゃない。自然と口が動いていた。
「クールのでもない」
そう、クールのでもない。何で気づかなかったんだろう。まさかクールに気づかされるなんて。
俺は勝ち誇っていた。俺は訪れた奇跡に感動していた。人生最高! いいこともあるもんだ! そして止まらない口は、この至上の思いを高らかに表現した。
「そのラブレターは俺のだ!」
「ええ!?」
みんなが一斉に目を見開き驚いた。
「気がつかなかったぜぇ、確かに宛名はボールダン。俺の可能性もあるじゃないか!」