表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/61

第2章 第8幕 その男、クールにつき

 案の定、クールは変な決めポーズ―― 本人はかっこいいと思っているらしい ―― をしたかと思うと、

 「だっしゅ君、ラブレターをもらったんだって?」

 と言い、怪しげな視線を送っていた。

 何かバカなことを言うなとピンときたと共に、そのバカのお陰で、俺の情けない醜態が掻き消える気がした。クールなら見当違いの何かをしてくれる期待が持てた。


 そしてクールは、見事に期待に答えてくれる男だった。

 だっしゅがうなずくや否や、それは僕へのラブレターだと言い出す始末。

 クールの勘違いボンバーを見ると、俺の暴走もまだまだ甘ちゃんだなと思わせてくれる。少しばかり元気になった。

 なおもクールの勘違いボンバーは続く。

 「そもそもこの僕がラブレターを貰ってないのに、だっしゅ君が貰えるわけないじゃないか」

 だからそのラブレターは僕のだと、まったく筋がない根拠でだっしゅを説き始めた。僕がいかに素晴らしい男か、いかに貰うべき男であるか、そしてなぜそれが僕のラブレターであるかを長々と、それでいてまったく根拠が成立しない理論でまくし立てている。素晴らしいよ、クール。これで二人の視線は情けない俺から、宇宙語を話すお前に移り変わった。だからこそお前に感謝の意味を込めて助言してやる。

 「どんだけ自信あるのか知らないけど、そんなモテないぞ、お前。クールに決めててもさ、あんまり決まってないんだよね。猫背はクールじゃないでしょ」

 いいこと言ったよ、俺。これでクールの勘違いも少しは落ち着くだろう。

 が、というか当然クールは怒った。

 「よくも気にしてる事を言ったな、背後霊ハゲ!」

 ……背後霊ハゲ、背後霊ハゲ? 背後霊ハゲ!?

 ブチ。キレた。

 「俺ならまだしも、俺背後霊を傷つけやがったな!」

 「僕猫背を傷つけたやつに言われたくない!」

 その瞬間、俺背後霊が鬼と化したのか、背中の空気がズシンと重くなるのを感じた。あいつの気持ちが俺に流れてくる。

 つらかろう、そうだ悔しかろう。よし、俺の体お前に預けた!今こそあの技しかない!

 俺は腰を折り、中腰のような姿勢をとった。俺の背中には、俺背後霊が背中合わせに乗っている気がした。いや乗っている。それが今の俺には分かった。そう、この技を出すために!

 「ロングホーントレイン!」

 俺は鬼と化した俺背後霊を背に、クールの胸に頭から突っ込んだ。

 ボキボキと乾いた音が俺の耳に入る。アバラを何本か折ってやったようだ。俺背後霊をバカにした罰だ!


 ……そういえば昨日も最強の肘突きでアバラを折ってたな、こいつ。……ん? その後、強力接着剤でくっつけてなかったか?

 俺の心に引っ掛かった不安は不運なことに見事に的中した。突き刺さった頭を取ろうと後ろに下がったが、俺の動きに合わせてクールがくっついてくる。後ろに下がろうが、右に行こうが、クールがくっついてくるのだ。そう、強力接着剤でクールの胸と俺の頭がくっついてしまったのだ。無理にはがそうとすると、髪の毛の抜ける音がぶちぶちと聞こえる。

 …抜けねぇ。

 背筋が凍った。そして妄想が膨らんだ。

 ひょっとしてクールとずっとくっついて生きてくのか? ひょっとしてこれがトロ子の言っていた出会い!? OH、GOD! 第一、クール三つ編みじゃないだろ! ……いや三つ編みだったっけ?

 記憶も曖昧になるほど俺は動転していた。三つ編みのクールを想像してみたが、その見た目の違和感に三つ編みじゃないと気付いた。理性を取り戻した俺は、クールから頭の取り外しにかかった。

 ブチブチブチ、多少の抜けは諦めるしかないか。

 が、そんな俺の思いとは裏腹に、部屋に物悲しい声が響いた。

 「やぁめぇてぇ、かぁみぃのぉけぇ」

 その断末魔の声は切なく、悲しく、切実なるものだった。多少もなにも抜けることに変わりはないという、俺背後霊の悲痛の叫びだった。

 

 そうだよな、俺背後霊。髪、これ以上抜けるわけにはいかないよな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
登場人物紹介登場人物
HONなび
Wandering Network
ネット小説ランキング
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
こちらもNEWVEL
こちらもカテゴリ別
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ