第2章 第7幕 暴走
「あの時の手紙だ!」
恋愛ってのはいまいち分からないが、なんだかこれだけは合っている気がする。うらやましい、なんてうらやましいんだ!
「トロ子、俺にはそういうのないのか!?」
多分、その時の俺は必死な表情だっただろう。トロ子の肩をがっちりとつかんだ俺の手には、かなりの力が込められていたらしく、トロ子が痛そうな表情を浮かべていた。俺はハッとして手を離した。なんだかちょっとかっこ悪かった。
なんでもないと言おうとした時、「三つ編みが見える」と、トロ子が言った。
来たよ、三つ編み! 俺の好み、どストライクじゃないか!
俺の手は再びトロ子の肩をがっちりと掴んでいた。トロ子はまた痛そうな表情を浮かべていたが、そんな表情を気にするゆとりはもう俺にはなかった。俺の本能は制御がきかなくなっていたのだ。
考えてみると、俺もいつの間にやら20代。ヒーローになることばかり追いかけ、他のものは全部素通りしてきた。恋愛なんてそんなものヒーローには関係ないと思っていたが、トロ子の言葉でこれだけ取り乱すということは建前の感情でしかなかったようだ。心の奥底では渇望しており、気にしないフリをしていただけだったのだ。
それからの俺は、トロ子に怒涛の如く質問を繰り返した。
いつ頃出会える? 性格は? スタイルは? ピンクか!? コンパスで変身しちゃったり!?
とにかく思いつくまま質問していた。動き出した口は止まることを知らなかった。
が、「バカ」というトロ子の一言で我に返った。
トロ子の顔には俺が飛ばしたらしい喋り唾がついていた。
慌てて俺は、トロ子を掴んでいた手を離した。トロ子は二つに分けて結んでいる後ろ髪をくるくると触っている。
―― 情けない。
だっしゅとトロ子に対してばつが悪く感じた。なんと言っていいかわからないまま、沈黙の時間が流れる。
俺の情けなさをより強調するこの沈黙を打破したかったが、どうしても第一声がでない。誰かこの沈黙を壊してくれと切に願った。
その時、ボルチェンジという声が聞こえた。
おお、救世主! と思ったが、入ってきたのはいつもロクな話にならないクールだった。