第2章 第6幕 きのうのできごと こうへん
そこに恋愛の匂いを嗅ぎつけたあいつがダンボール裏から現れた。そうメルヘン女、キャンディーだ。
「恋愛話かな? いや〜ん♪ いいないいな、私も素敵な恋愛をしたい♪」
―― うぜぇ、このぶりっこオーラが、たまらなくうぜぇ。
「僕が相手しようか?」と、クールが話しかけたが、キャンディーはクールを生理的に受け付けないらしく―― みんなか? ――にがい表情を浮かべた。
「でもね、向こうは私の事知らないわけだし……」
「知り合いじゃないんだ。街で見かける人とか? 一目惚れ!?」
興奮状態なのはわかるが俺の肩をバシバシ叩くのはやめてくれ。
その相手は僕でしょうというクールに、キャンディーはメルヘン界に存在しない冷ややかな眼差しを向けた。
「え? うん、なんかさ、やさしそうなところかな」
「やさしい人なんだ!」
だからバシバシ叩くのはやめてくれ。
「ますます僕だね」
「誓ってない!」
苛立ちからか、キャンディーは大きな声を上げてしまった。
―― まずい!
危険を察知し、とっさに俺はキャンディーの口を押さえようとした。
が、彼女もこちらに振り返ろうとしていた。
―― ばれる!
そう思った瞬間、大きなゆれと共に「動くな」という小さくてかわいい声が聞こえた。
俺たちはその声に従って動き、そして息を止めた。ドスンと部屋を大きな揺れが襲う。
その揺れに、彼女はキョロキョロと部屋を見渡している。
「地震? 地震よね? ……え、そっちは揺れてない? すごく大きいよ。……なんか声が聞こえたと思ったら部屋が揺れて」
彼女の気を散らすため、最強がしこを踏んだのだ。
「彼女がいる時くらい静かにしろ!」
最強は俺たちを叱ったが、かわいい声のせいか、どこか萌えな気分になった。
そんなチャームポイントのようなウィークポイントを褒めてしまうバカがいた。
そう、クールだ。
「怒ったところ、かわいいよ♪」
言ってはいけないことをと思った時には、ボキッという骨が砕ける音が鳴り響いた。クールの胸には最強の肘が突き刺さっていた。あばらが何本かいっただろう。生きているだけ良かったと思うんだな。
ご臨終なクールから彼女に目を戻す途中、彼女を見つめているだっしゅが目に入った。
「何見てるんですかね」
いつの間にか隣にいたロボが不思議そうに聞いてきた。
「そうだな、恋……じゃないかな」
俺は思ったことを口にする。
「恋ってなんですか? 偉大ですか?」
ロボットなんでいまいちそういう感情が分からないらしい。
とはいえ、正直俺も恋って感情については、いまいちよくわからない。気付いていないだけなのかもしれないが、よくわからないので俺の持ってるイメージを言ってみた。
「なるほど。私がオイルに感じる感情ですね」
少し違う気がしたが、面倒くさいのでうなずいておいた。
「いかーん! ボルレンジャーに恋愛はご法度だぞ!」
恋愛話を嗅ぎ付けたリーダーがぬいっと現れたが、その声にまたもや彼女が反応した。
みんなの動きが止まった。本日二度目。
彼女が部屋を見回す。短いが緊張感の詰まった時間が流れる。とにかく音を立ててはいけない。
しばらく彼女は用心深く部屋を見回していたが、何もないと感じたのか、彼女は首をかしげた。
「ううん、最近、物音が激しくて……え? 私が留守の時に変な声? なんて? ボル? ……ボルチェンジ? なにそれ?」
リーダーがふぅとため息をつく。
「なぁ、リーダー。彼女に俺たちの存在を教えないか?」
そんな俺の問いに、いつもと変わらない返事をリーダーは返してきた。
「我々は秘密組織だ。我々の存在も、基地も、みんな秘密でなければならない」
そんな昨日の出来事。