第2章 第5幕 きのうのできごと ぜんぺん
「はぁ……。とはいっても、書けるかな?」
部屋の住人である彼女は、天井を見つめながらため息をついた。
何か考えているらしく、もう一度ため息をつく。ぼんやりとした彼女の目には何も映っていないように思える。
俺とだっしゅは、そんな彼女をダンボールの裏側から見ていた。
彼女が留守の間、俺たちボルレンジャーはリビングでくつろげることになっている。
彼女は学生であったことから昼間は外出していることが多く、その時間を利用して居間でTVを見たり、トランプをすることが出来た。もう少しド派手なことをしたかったが、前にダーツをやって壁に大きな穴を開けて以来、部屋内で出来る事は限定されていた。
逆に彼女がいる場合は、俺たちの存在がばれないようにダンボールに隠れて過ごすのがルールだった。
―― こちらサイドだけで勝手に決めたことだが。
ただホゲーンが襲ってこない限りはダンボール裏で待機という状態であり、そんな住み込み生活には、部屋の住人である彼女を見ることくらいしか暇つぶしになることはなかった。もちろん彼女のプライバシーをある程度守ってはいる。特に着替えとか。
前にこっそり覗こうとした時、だっしゅにすごく怒られたことがある。その時のだっしゅの恐ろしい目はきっと忘れることは出来ない。
それ以来、彼女のプライバシーをどこまで守るか取り決めを行い、覗き等は禁止項目として決定された。
―― これもこちらサイドだけで勝手に決めたことだが。
『彼女の会話の内容を聞く』これについても禁止項目か議論となったが、これまで禁止にすると、ダンボールひきこもり人間が大量に生産されそうだということで、本当は良くないと分かっていながらも禁止項目にはならなかった。
だからこうして隠れながらだが、彼女を見ていることが出来た。
彼女は天井から目を落とすと、テーブルに置いてあった携帯電話を手に取った。そしてもう一度ため息をついた。
「……あ、智子? やっぱダメだよ、私にはこういうのだめみたい。……うん、それも恥ずかしいよ。でもさぁ! ……うん」
智子と呼ばれる相手の言葉に押されているのか、彼女はほとんど、うんうんとしか答えていない。
じれったいやつ、そうだっしゅに話しかけたが返事はなかった。