うさぎのお巡りさん ⑧
植田秋穂さんと名乗った彼女は、ここのショップの社員だったらしい。彼女に手伝ってもらったことで、俺の携帯は程なく決まろうとしていた。
「では、手続きいたしますね」
植田さんに導かれるまま受付カウンターに座る。テキパキと手続きを進める彼女を見ながら、俺の頭は別のことを考えていた。
「……下北さま?」
「あ、すみません」
しばらくぼーっとしていたらしい。呼ばれて我に返ると、植田さんが心配そうに俺を見ていた。
「どこかお加減でも?」
「いえ」
取りなすように笑ってみせるものの、彼女はまだ心配そうな顔をしていた。
「実は、ここで待ち合わせしてる人が来ないんです。その人は極度の方向音痴なんで……」
「そうでしたか……でしたら急いで手続きをすませないとですね」
簡単に説明すると植田さんは人のいい笑みを浮かべ、手続きの続きを始めた。
それから約10分程、黙って作業をした結果ようやく手続きが終わった。
「待ち合わせしていらっしゃるのって、彼女さんですか……?」
「え……?」
ショップの出口まで見送りに出てきた植田さんの言葉に足が止まる。
振り返ると、悲しげな瞳とぶつかった。
「ちょっと残念だなって。また会えるなんて思ってなかったから……」
照れたように笑う植田さんだけど、涙目になっているように見える。
「すみません、気にしないでください。ご来店ありがとうございました」
泣いているように見えたのは一瞬で、にっこりと微笑んだ植田さんは深々と頭を下げる。
そんな彼女にかける言葉すら見つからず、俺は一礼してショップを後にした。