うさぎのお巡りさん(終)
最終話は唯花目線です。
心配して送ってくれた片山さんと別れた後、会社に休むことを伝えた。ビクビクしながらかけたけど、意外にもあっさり承諾されて、ホッとした反面拍子抜けした。
そして、春樹さんのことで一つ決心をする。
そこへ鳴り響いたチャイム。私はろくに確認もせず、出てしまった。
「……みつけたっ」
そこにいたのは息を切らせている春樹さんだった。
「どうして……」
「このバカ!」
驚く私に叱咤して、中に入ってきた春樹さんは私の腕をぐいっと引いた。
「良かった……」
絞り出すような、安堵の声。それを聞いて胸がチクリと痛んだ。
このまま身を任せてしまいそうになる自分を叱咤して、春樹さんの腕の中から抜け出そうともがく。
「唯花?」
私の異変に気付いた春樹さんがそっと腕をとく。けれど私の両腕は春樹さんに捕まったまま。
「……別れたい、です」
私の言葉に春樹さんが息をのんだのが分かった。
「なんで? 俺のこと嫌いになった?」
「違うの……でも、私じゃダメだから……」
そう、ずっと感じていたこと。私は春樹さんに迷惑かけてばかりだから。私なんか春樹さんに相応しくないって。
「嫌いじゃないならまだ好きでいてくれてる? 唯花、好きなら離すな……俺は唯花が好きだから離したくない」
そう言ってまた私を春樹さんは腕の中に閉じ込める。抵抗するべきなのにその温もりが恋しくて、弱い私は振りほどくなんてできなかった。
「でも……あの人……」
「あぁ、あの人は……」
ゆっくりと髪を撫でながら詳しく話してくれる春樹さん。その言葉が終わると、私は彼におずおずと抱きついた。
「安心できた?」
「……はい」
頷くと笑ってくれた春樹さん。その笑顔に私は彼が好きだと改めて自覚した。
「……ごめんなさい」
「いいよ、唯花はすぐ迷子になるから。俺がちゃんと見つけてやるさ」
「春樹さん、お巡りさん?」
抱きついたまま尋ねると、春樹さんはニコッと笑う。
「らしい。唯花が迷子の子猫らしいから、俺は犬のお巡りさんかな?」
「犬よりうさぎがいい……」
動物で何よりもうさぎが好きな私。それを知る春樹さんは、微笑んでじゃあうさぎで、と言った。
でもね、単にうさぎが好きだからじゃないんだ。
春樹さんは私が迷っても必ず見つけて導いてくれる。
それはまるで、どんなに離れようとしても見上げればそこにいるお月様ねようで。もしかしたら春樹さんはお月様が私の為に遣わした月に住むといううさぎの化身なのかもしれないと……なんて、恥ずかしくて言えないけど。
ただ、あなたが側にいてくれて、守られていると感じる度にそう思う。
あなたは月が遣わした、うさぎのお巡りさんなんだと。
【End】
長……
その一言しか出ません。
最終話の長さも半端ないし
やっと完結しました☆
なぜ「犬」ではなく「うさぎ」のお巡りさんか。ちょっと変な理屈かと思いますが、唯花の思考回路はこんなんです(=作者ですが)
あんまり修羅場らしきものなくて申し訳ありません。
それでも少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!