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うさぎのお巡りさん⑩
植田さんの言葉も気になったけど、それよりも唯花のことが気になった。
昨日の今日で、また迷子になってはいないか。彼女の無事だけが心配で、自然と歩調が早くなる。
「唯花!」
とりあえず向かった駅に辿り着き、唯花の姿を探す。しかしどこにも彼女の姿は見当たらなかった。
駅に電車が着いたらしく、だんだんと人混みが激しくなる。そんな中、真新しい携帯の着信音がけたたましく鳴り響いた。
「はい」
唯花かもしれないと名前も確認せず慌てて出た俺の耳に、聞き慣れた笑い声が聞こえてくる。
「必死って感じね、下北くん」
「片山さん……?」
電話の相手は上司の片山さんだったらしい。仕事で何かあったのだろうか、などと思っていると片山さんの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「迷子の子猫ちゃんは預かったわ」
「……は?」
「すぐには返さないから。まぁ、身の安全は保証する。以上」
それだけ言うと片山さんはさっさと電話を切ってしまった。
あんまりに突然のことに、俺はその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。