うさぎのお巡りさん ①
単品でも大丈夫と思いますが、前作を読んでいただけますとより分かりやすいと思います。
今回は『迷子の子猫』春樹目線
新しい展開は次回になります。
それではお楽しみください。
俺、下北春樹の彼女、谷川唯花は超がつく程の方向音痴で、加えてド天然だ。
「唯花!」
キョロキョロと周りを見渡しながらあらぬ方へ向かう彼女を捕まえる。
出会って一年。迷子になった彼女を見つけるのはお手の物になったと自負してる。
「あ、春樹さん!」
って、おい。至近距離で人を指さすな。
外に出れば迷子になるのは分かり切ってるのに、なんでかこいつは一人で出歩こうとするんだ。
これじゃ、何のために俺がいるんだか分からない。しかも目的地と反対方向に進むって……これだから目が離せない。
仕方なく混乱している唯花の手を取り歩き出す。できるだけゆっくり、彼女の歩調に合わせながら。
「全く……次から一人で行動するな」
「えー?じゃあ家から出られない……」
背後から不服そうな唯花の声がする。
「駅までの道なら覚えたもん!」
駅まではな。スーパーやら薬局やらはそこから少し離れたアーケード内だ、唯花は必ず迷子になるだろう。
「そら毎日通勤する道ぐらいは覚えてもらわなきゃだからな」
この道すら、ちゃんと覚えるまで一年かかってる。しかも毎日俺が手を引いて教えてやった。
「じゃあ買い物どうしたらいいの?」
「俺と行けばいいだろ。なんなら買ってくるし」
泣きそうな声に当然、とばかりに答えてやる。そう、俺にもっと頼ってくれればいいんだ。
「どういうこと?」
「……」
こいつ……バカなのか?やっぱりバカでしかないのか?
「だから、俺とずっと一緒にいろって言ってんの」
「……へ?」
俺としては恥ずかしさを抑えながら、頑張って言葉にした。なのに伝わらないのか、唯花はきょとんとしている。
「鈍い奴……結婚してやるって言ってんだよ。お前の面倒みれるの俺ぐらいだろうが」
半まくし立てるように言う。言いながら照れ臭くて、俺は唯花の顔が見れなかった。
「私達、付き合ってたの?!」
目的地を目前にした小道に響き渡った唯花の素っ頓狂な叫び声。若干キンキンする耳を押さえながら、俺の口からは本日最大のため息がでたのだった。