魔王の娘と気付くまで
「マオちゃんおはよー」
「うん、おはよう」
ふふん、ワタシは魔王の娘のマオ。
まあ、本名はマオーなんだけど、それはともかく……
最近ワタシは、とある人物によく話しかけられて悩んでいる。
そんな噂をしていると……
ほら、やってきた……!
「よう、マオ! 遅かったではないか!」
「げっ、勇者……」
「『げっ』とは酷いな! だが、オレのオーラが効かないところは好印象だぞ!」
勇者がそんなことを口にしていると、友達の女の子が勇者に話しかける。
「勇者さま、おはようございます!」
「うむ、おはよう! マオもおはよう! ふふん、オレから挨拶するのは珍しいぞ? ふはははは!!」
「はいはい、おはよう勇者」
「うーむ、しかし……なぜオレのオーラはマオに効かないのだろうな?」
「オーラ?」
「オレの一族にある、『人を惹きつける能力』のことだ」
「ふ、ふーん……」
ま、マズい……!
「オーラ」というのはよく知らないけれど、おそらく魔族には効かないのかも。
ここはうまく誤魔化そう。
「それより勇者! 遅刻するわよ!」
「むっ、そうだな! では行こう!」
「……なに仕切ってるの?」
「勇者だからだ!」
「……まあいいや。無視して行こう」
そんなこんなで教室へ着くと、窓際にある自分の席に座る。
この席だと目立ちにくくて、結構好きだ。
ただ問題点もある。
それは……
「マオ! 話さないか?」
勇者が前の席にいることだ。
「いまから宿題やるから、邪魔しないでくれる?」
「…………そうだったか。それはすまん」
「……あんたはどうなの?」
「ふはは! もちろんすでに終わらせている! 勇者たる者、完璧でなければならないからな!」
「はいはいそうですか」
「もしよければ、手伝ってやろうか? 『魔導生命体の進化論』は苦手だろう?」
なんで知ってるのよ……。
なんて思いつつ、ワタシは口を開く。
「ま、まあ? 勇者が手伝いたいって言うのなら、仕方なく教わってもいいわよ?」
「そうか! 魔導書の『魔導生物』のページを開いてくれ!」
「わかった。『目次』! 『魔導生物』のページ!」
ワタシがそう唱えると、魔導書は宙へ浮かび、パラパラと音を立ててページがめくれる。
「パタン」という音がしたと思えば、魔導書は閉じた後に落ちてきた。
そして、机に触れた瞬間、「魔導生物」のページが開かれる。
「ふはは! マオは古風だな!! 普通にめくればいいだろうに!」
「いやー、面倒だからついやっちゃうのよね。あとワタシ、いつもこのやり方だし」
「へぇー、そうなのか!」
「ハッ……!? き、気安く話しかけないでよね! ワタシから話しかけたときは許可するけど!」
「おう! それはすまない!!」
「わ、わかればいいのよ……!」
危なかった……!
勇者に情が移るところだった!
勇者は昔、魔王の一族と敵対してたって聞くし、仲良くしないようにしなくちゃ……!
「……ねぇ勇者、ここなんて書けばいいの?」
「うーむ……答えを教えては成長できぬからな……。ヒントならやろう!」
「ぜひお願いするわ!」
「うむ! そこはな――――」
……って、すでに仲良くしてるような気がするけど、まあいいわ!
最終的には平和的交渉をして宥めることにしましょう!
そんなことを考えつつ、ワタシは宿題を終わらせた。
「よし! ありがとね、勇者!」
「ゼノンと呼べ!」
「いやいや! 周りと違う呼び方したら、なんか特別な関係みたいじゃない!!」
「そ、そうか……」
ヘコむ勇者。
いつもは胸を張って偉そうだから、ちょっと面白い。
でも、ヘコんでるこいつは見たくないし……
……あーもう! 仕方ないわね!
「……ゼノン」
「マオ……!」
「……って、たまになら呼んであげてもいいけど? もちろん、いつも同じ呼び方になるとは思わないことね!!」
「うむ!!」
良い声で返事をする勇者に、不思議と安心感を覚えるワタシだった。
◇
授業も終わり、魔導書を読んで復習していると、ゼノンが話しかけてくる。
「マオ!」
「気安く話しかけないでくれる? それで、なにかしら?」
「食堂で一緒に食べないか?」
「……あのねぇ、あんたと前に一度食べたとき、覚えてる?」
「覚えとらん!!」
「あ、そう……。なら教えてあげる。上級生とか同級生にちょくちょく話しかけられるせいで、ワタシはまともに食事できなかったんだから!」
「それは悪かった! なら購買でどうだ!?」
「カレーパン買ってきて。もちろん代金はあんたが払うのよ? そっちが提案してきたんだからね!」
「いいぞ! マオのためなら!」
そう言って、ゼノンは一瞬で消えたと思いきや、一瞬で現れた。
「待たせたな!」
「いや、あんまり待ってないけど……?」
「カレーパンだ! それと、これは幻獣族の肉で作られたコロッケだ! 一口やろうか?」
「いや、いいわ。ワタシ魔族だから、幻獣族の肉はあまり食べないもの」
「そうか……。魔族って大変なんだな!」
「ええ。まあ、風当たりは昔より良くなったって、パパが言ってたけどね」
「……ほう、お父上か!」
「その言い方やめてもらえる?」
「すまない!」
「それでゼノン、お金はちゃんと払ったんでしょうね?」
「ああ! 勇者払いだ!」
「…………どういう意味かしら?」
「勇者の権限で、無料にしてもらった!」
「はぁ……」
ワタシが大きなため息をつくと、ゼノンは疑問に思ったのか尋ねてきた。
「駄目だったか?」
「……ええ。食べ終わったら、ちゃんと払いに行きましょう。ワタシが全額払うから、あんたは後日、ちゃんとワタシに払うようにね! その代わり、勇者払いはなしよ?」
「わかった! オレは嘘はつかん!!」
「約束したから、ホントに頼むわよ?」
「ああ!」
こいつ、こんな調子で大丈夫かしら?
まあ、そのたびにワタシがゼノンのケツをひっぱたいてやればいいか。
それよりも……
「うーん、美味しい!」
「うむ! 美味い!!」
「真似してる?」
「いや? していないぞ! オレは嘘はつかん!」
「ならいいけど……。それよりあんたって、普段なに食べてるの?」
「なんだ? オレに興味津々か?」
「ええ。たまにはワタシから聞いてもいいでしょう?」
「わかった! オレは食べたいものを食べている!」
「は?」
「言いづらい食べ物もあるぞ! 魔獣とかな!」
「あんた、野宿でもしてるの?」
「ああ! 師匠にならって、いまのシーズンは野宿期間なんだ!」
「へ、へぇ……」
師匠とかいるんだ……。
そう考えると、ワタシって温室育ちだな。
……って、それが普通でしょうが!
危ない危ない、こいつの価値観に毒されるところだった。
「いまでも強いのに、これ以上強くなってどうするの?」
「魔王を倒す!」
「ふーん……」
「……って、師匠とかみんなの前で言ってるけど、実際は違う!!」
「えっ?」
「これはオレの野望だから、本来は誰にも言わない! というか言えない! 特に、魔族にはな!!」
ゼノンがここまで引っ張ることか……。
ものすごく気になるけど、ワタシには教えてくれるかしら?
というか、友人だしいけるでしょ! よし、聞くぞ!
「ワタシにだけでも教えてくれる?」
「……うーん、絶対に他言するなよ?」
「ええ」
「魔王と和解する」
「わ、和解……?」
「ああ。勇者の血を継ぐ者で一番若いのはオレだ!」
「そ、そうなの……」
なんかダジャレみたいね……。
あと普通に声が大きいから、教室に残ってる魔導生からは注目されてるけど、いいのかしら……?
「だから、魔王を殺す義務があるのはわかっている! だが、魔王が悪いやつとも限らん!! 魔王の思想を理解したうえで、オレは倒すか、もしくは和解する道を選びたい!!」
「ふーん、そう……」
腐っても勇者ね。
無銭飲食したとしても、考え方は偉大というか……
いや、ただバカなだけだったりして……ま、それはともかく!
「いい思想ね! ゼノンがもしよければ、ワタシも応援してあげなくもないけど?」
「すまないな! 応援してくれ!!」
「ええ。それで、どうやって魔王に会うつもりなの?」
「それは……わからん!!」
「は?」
「というか、魔王の姿すら知らん!! だが、いつか会ってみせる!!」
「そう……。頑張ってね」
「ああ! 先は長そうだ!」
こんなやつが勇者で、本当に大丈夫なんだろうか?
柄にもなく、そんな心配をしてしまうワタシだった。
◇
放課後になって帰ろうとすると、ゼノンが頭を抱えてうなっている。
どうかしたのかしら?
こいつが悪いやつじゃないのはわかったけど、本当に助けるべきなのかな?
……ま、いいか。暇だし。
「……どうかしたの?」
「おおっ! マオか!」
集中していたのかボケてるのか……
引き続き話を聞いてあげるワタシ。
「『どうかしたの?』って聞いたんだけど?」
「ああ、実はな……」
「実は……?」
「実はオレ、こんなものをもらったんだ!」
そう言ってゼノンが差し出したのは、手紙だった。
「ただの手紙じゃないの」
「ただの手紙じゃないぞ! これを読め!」
「えーと……? 『なにも言わずに魔導学校の屋上の広間に来てください』……か。これってラブ……」
「果たし状ってやつだ!! オレ、戦いが嫌いなんだ!」
「えっ!? 野宿期間だとか、師匠がいるって言ってたわよね?」
「『強い』のと『戦いが好きかどうか』は別だろう!!」
「ま、まあそうね……。そういうものかしら……?」
「だから、マオもついてきてくれ!」
「パス。一人で行きなさい」
「なんだと!?」
「果たし状なら、お得意の『雷魔法』で逃げればいいでしょう」
「『男だったら、戦いから逃げるな!』って師匠に言われてるんだ!!」
「あーもう、面倒くさいわね!!」
というか、勇者なのに戦いが嫌いだとか、意味わかんないし!!
「じゃあ、仕方ないからついていってあげるわ」
「おおっ! 頼もしいな!」
「なんでワタシがこんなことを……。ていうか、手紙は一度ももらったことがないの?」
「ふははは! ラブレターとやらは何回かもらったことがある!!」
「ふーん、やるじゃない」
「だが、オレにはオーラがある! 自分に対する『好意』が能力のせいだと嫌なんだ!! だから、オレはオーラが効かないやつを好きになりたい!!」
「意外と一途なのね……」
「当たり前だ! 勇者たる者、浮気は駄目だからな!」
「あれ? 返事はどうしてるのよ? ラブレターをもらってもビクビクしてるの?」
「失敬な! ラブレターをくれた相手には、『オレは好かれるほど大層な人間ではない! 勇者だからな!!』と返している!」
「そ、そうなんだ……」
勇者宣言は必要なのかどうかは、この際置いといて……
「ていうか、高速で動けるのなら、一瞬だけ確認してくれば?」
「……だが、人がいっぱいいたら怖いぞ!」
「あーもう! じゃあいっそのこと、無視して帰れば?」
「そうだな! でも、もし果たし状でなければオレはクズじゃないか!?」
「……勇者払いしてる時点でクズじゃない?」
「それは本当に申し訳ない! アレは歴代の勇者がやってきたことだったから……」
「歴代の勇者たち、結構ろくでもないわね……」
「オレの代から金はちゃんと払う!!」
「言っておくけど、それって当たり前のことだから」
「す、すまない……」
まったく、世話が焼けるわね。
「それで、いつ行くの?」
「そうだな! 別に指定されていないし、もう少しマオと話がしたい!」
「なんでよ?」
「……うーむ、なぜと聞かれてもな……。話をするのに理由なんているか?」
「それもそうね」
「ああ! マオは手紙をもらったことはあるか?」
「うーん……同居人からはあるかな」
「ほう……! 魔族とは不思議なものだな!」
「いや……もらったと言っても、おままごとでだから」
「なんだ、魔族も案外普通だな!」
いい年したおじさんたちにままごとをさせてたのは、いま思うと黒歴史ね。
「まあ、可愛がってくれたし……いい人たちだったわよ?」
「どういう関係だ!? 家族構成を教えてくれ!!」
「えーと、説明すると難しいんだけど、簡単に言えば、親が魔王軍の魔族なのよ。だから、何人で住んでるのかはわからないわね……」
「なるほど……! 確か魔王軍の人物にオーラは影響がないと、師匠が言っていたな!」
一応、嘘はついてないわよね?
「ゼノンは? どんな家族構成なのよ?」
「うむ! オレの父は師匠の師匠だった! だが……」
「え? どうかしたの?」
「いや、いまは平和になったのと魔王と戦う必要もなくなったから、一族の長を引退して隠居している。ゆえに、どこに住んでるかは知らぬ!」
「あぁ~、平和ボケしてる魔王軍の人がよくいたわね」
「おおっ! 思わぬ共通点だな!」
「……それで、他の人は?」
「師匠……オレの兄だ。兄は二人いて、一番上の兄が師匠だ! 下の兄は覇道を降りて、普通に働いている!」
「ふーん……」
魔王軍にも下界に行った人もいるし、それと近い感じなのかな?
「じゃあそろそろ向かいましょう?」
「あ、ああ! 果たし状だな?」
「いや多分違うから」
「油断はするなよ?」
「だから、油断していいんだっての」
「行くぞ! マオ!」
「うん! でも、高速移動はやめてよね」
「わかった!」
こうして屋上に向かうと、女の子が二人待っていた。
「ほら、行ってきなさい!」
「おう! 勇者たる者、気遣いができなくては困るからな!」
「……そうね」
この後、ゼノンが女の子と向き合い、こう言い放つ。
「すまない! お前とは付き合えない! 勇者だからな!」
「……はい。ありがとうございました……!」
告白が終わると、告白した子は顔を覆って去っていった。
なんだかあっさりしていたけれど、こういうものなのかな……?
「さぁ、行くぞマオ!」
「う、うん……。それより、ゼノン?」
「なんだ?」
「あんた、いつもこんな感じなの……?」
「ああ! なんといっても、勇者だからな!」
「……そう」
告白慣れしているゼノンが、少し大人に見えた。
そんな夕暮れ時の放課後だった。
◇
ほうきにまたがりワタシは下校する。
「ふぅ、今日はゼノンの珍しいところを見れたかも……」
「そうか! それはよかったな!」
「そうでもない……って、なんでついてきてるのよ!?」
「いいだろう! 家まで送り迎えしたって!」
「はぁ……まあいいけど、魔王城を見たら帰ってよね!」
「ああ! いいぞ!」
こうして、帰路につくワタシたち。
「それにしても、帰ったらマオはいつもなにをしているんだ?」
「ペットに餌をあげたり、撫でてあげたり、乗ったりしてるわ」
「乗るのか!? でも、魔界のペットなら納得かもな!」
「ものすごく大きいから、よくみんなで乗ってマッサージしてあげるのよ」
「ほう……! なんだか楽しそうだ!」
「乗る? 頭が三つある犬だから、どの子が気持ちがるところとか、全部の子が気持ちがる場所を撫でてあげれば懐くわよ?」
「ほほう、ケルベロスだったか? 実在したんだな!」
「ええ。味覚が一頭ずつ違うから、餌の選び方が難しいのよね」
「……意外と大変なんだな!」
「ええ。そろそろ見えてくるわよ!」
一瞬で空が紫色に染まり、辺りは稲妻がいくつも見える。
「ほう、魔界とはこういうものなのか!」
「ワタシについてきて!」
「ああ、わかった!」
ワタシが通ったところ以外には罠が仕掛けられている。
子どもの頃はよくかかって、パパたちを困らせたっけ……
「見て! 魔王城よ!!」
「おお……! 紫に染まった城って感じだな! まさに魔王城だ!」
「まあ、そうね……」
……って、見たまんまじゃないの。
「じゃあな! マオ!」
「ええ! あっ、そうだ。ゼノン!」
「……なんだ?」
「また明日!!」
「ああ! また明日! それじゃあな!!」
「ええ!!」
去っていくゼノンを眺めながら、ワタシはつぶやいた。
「多分、あれは気付いてないわね……」
でも、そっちの方がゼノンらしいものね!
そう思いながら、自分の部屋へと直行するワタシだった。
◇
「あー……結局昨日も、徹夜でみんなと遊んじゃったわ……」
そんな独り言を言いつつ、ワタシは寝不足で登校する。
「よう! おはよう、マオ!」
「はいはい、おはよう勇者」
「ゼノンと呼べ!」
「ふふん、たまになら呼んであげてもいいわよ?」
そう言ってニヤリと笑いながらも、ワタシは口を開く。
「なーんてね! 行くわよ、ゼノン! 今日も宿題教えてよね!」
「ああ!」
どうやらゼノンがワタシの正体に気付くのは、もう少し後の話になりそうだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
「魔王の娘が勇者に正体を気付かれないギャグファンタジーを書いたら面白そう」
そこから着想を得て、この作品を書き始めました。
今回は、なろう異世界ファンタジーフェス!2026への参加作品として投稿させていただきました。
ちなみに、本文ではテンポを優先し、二人の外見についてはあまり触れていません。
マオは紫色の髪でサイドテール。魔族なので黒白目。瞳は緑色です。
ゼノンは勇者らしく金髪の短髪、赤と黄色のオッドアイで、制服の上に赤いマントを羽織ってます。
戦ったり、世界を救ったりする話ではありませんが、
勇者と魔王の娘が、学校で宿題をしたり、ごはんを食べたり、くだらない話をしたり。
そんな二人のやり取りを楽しんでいただければいいなと思います。
ちなみに、ゼノンがマオの正体に気付くのは、まだまだ先になりそうです。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!




