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魔王の娘と気付くまで

作者: 私信
掲載日:2026/10/06


「マオちゃんおはよー」

「うん、おはよう」


 ふふん、ワタシは魔王の娘のマオ。

 まあ、本名はマオーなんだけど、それはともかく……

 最近ワタシは、とある人物によく話しかけられて悩んでいる。


 そんな噂をしていると……

 ほら、やってきた……!


「よう、マオ! 遅かったではないか!」

「げっ、勇者……」

「『げっ』とは酷いな! だが、オレのオーラが効かないところは好印象だぞ!」


 勇者がそんなことを口にしていると、友達の女の子が勇者に話しかける。


「勇者さま、おはようございます!」

「うむ、おはよう! マオもおはよう! ふふん、オレから挨拶するのは珍しいぞ? ふはははは!!」

「はいはい、おはよう勇者」

「うーむ、しかし……なぜオレのオーラはマオに効かないのだろうな?」

「オーラ?」

「オレの一族にある、『人を惹きつける能力』のことだ」

「ふ、ふーん……」


 ま、マズい……!

 「オーラ」というのはよく知らないけれど、おそらく魔族には効かないのかも。

 ここはうまく誤魔化そう。


「それより勇者! 遅刻するわよ!」

「むっ、そうだな! では行こう!」

「……なに仕切ってるの?」

「勇者だからだ!」

「……まあいいや。無視して行こう」


 そんなこんなで教室へ着くと、窓際にある自分の席に座る。

 この席だと目立ちにくくて、結構好きだ。

 ただ問題点もある。

 それは……


「マオ! 話さないか?」


 勇者が前の席にいることだ。

 

「いまから宿題やるから、邪魔しないでくれる?」

「…………そうだったか。それはすまん」

「……あんたはどうなの?」

「ふはは! もちろんすでに終わらせている! 勇者たる者、完璧でなければならないからな!」

「はいはいそうですか」

「もしよければ、手伝ってやろうか? 『魔導生命体の進化論』は苦手だろう?」


 なんで知ってるのよ……。

 なんて思いつつ、ワタシは口を開く。


「ま、まあ? 勇者が手伝いたいって言うのなら、仕方なく教わってもいいわよ?」

「そうか! 魔導書《きょうかしょ》の『魔導生物』のページを開いてくれ!」

「わかった。『目次』! 『魔導生物』のページ!」


 ワタシがそう唱えると、魔導書は宙へ浮かび、パラパラと音を立ててページがめくれる。

 「パタン」という音がしたと思えば、魔導書は閉じた後に落ちてきた。

 そして、机に触れた瞬間、「魔導生物」のページが開かれる。


「ふはは! マオは古風だな!! 普通にめくればいいだろうに!」

「いやー、面倒だからついやっちゃうのよね。あとワタシ、いつもこのやり方だし」

「へぇー、そうなのか!」

「ハッ……!? き、気安く話しかけないでよね! ワタシから話しかけたときは許可するけど!」

「おう! それはすまない!!」

「わ、わかればいいのよ……!」


 危なかった……!

 勇者に情が移るところだった!

 勇者は昔、魔王の一族と敵対してたって聞くし、仲良くしないようにしなくちゃ……!


「……ねぇ勇者、ここなんて書けばいいの?」

「うーむ……答えを教えては成長できぬからな……。ヒントならやろう!」

「ぜひお願いするわ!」

「うむ! そこはな――――」


 ……って、すでに仲良くしてるような気がするけど、まあいいわ!

 最終的には平和的交渉をして宥めることにしましょう!

 

 そんなことを考えつつ、ワタシは宿題を終わらせた。


「よし! ありがとね、勇者!」

「ゼノンと呼べ!」

「いやいや! 周りと違う呼び方したら、なんか特別な関係みたいじゃない!!」

「そ、そうか……」


 ヘコむ勇者。

 いつもは胸を張って偉そうだから、ちょっと面白い。

 でも、ヘコんでるこいつは見たくないし……

 ……あーもう! 仕方ないわね!


「……ゼノン」

「マオ……!」

「……って、たまになら呼んであげてもいいけど? もちろん、いつも同じ呼び方になるとは思わないことね!!」

「うむ!!」


 良い声で返事をする勇者に、不思議と安心感を覚えるワタシだった。


   ◇


 授業も終わり、魔導書を読んで復習していると、ゼノンが話しかけてくる。


「マオ!」

「気安く話しかけないでくれる? それで、なにかしら?」

「食堂で一緒に食べないか?」

「……あのねぇ、あんたと前に一度食べたとき、覚えてる?」

「覚えとらん!!」

「あ、そう……。なら教えてあげる。上級生とか同級生にちょくちょく話しかけられるせいで、ワタシはまともに食事できなかったんだから!」

「それは悪かった! なら購買でどうだ!?」

「カレーパン買ってきて。もちろん代金はあんたが払うのよ? そっちが提案してきたんだからね!」

「いいぞ! マオのためなら!」


 そう言って、ゼノンは一瞬で消えたと思いきや、一瞬で現れた。


「待たせたな!」

「いや、あんまり待ってないけど……?」

「カレーパンだ! それと、これは幻獣族の肉で作られたコロッケだ! 一口やろうか?」

「いや、いいわ。ワタシ魔族だから、幻獣族の肉はあまり食べないもの」

「そうか……。魔族って大変なんだな!」

「ええ。まあ、風当たりは昔より良くなったって、パパが言ってたけどね」

「……ほう、お父上か!」

「その言い方やめてもらえる?」

「すまない!」

「それでゼノン、お金はちゃんと払ったんでしょうね?」

「ああ! 勇者払いだ!」

「…………どういう意味かしら?」

「勇者の権限で、無料にしてもらった!」

「はぁ……」


 ワタシが大きなため息をつくと、ゼノンは疑問に思ったのか尋ねてきた。


「駄目だったか?」

「……ええ。食べ終わったら、ちゃんと払いに行きましょう。ワタシが全額払うから、あんたは後日、ちゃんとワタシに払うようにね! その代わり、勇者払いはなしよ?」

「わかった! オレは嘘はつかん!!」

「約束したから、ホントに頼むわよ?」

「ああ!」


 こいつ、こんな調子で大丈夫かしら?

 まあ、そのたびにワタシがゼノンのケツをひっぱたいてやればいいか。

 それよりも……


「うーん、美味しい!」

「うむ! 美味い!!」

「真似してる?」

「いや? していないぞ! オレは嘘はつかん!」

「ならいいけど……。それよりあんたって、普段なに食べてるの?」

「なんだ? オレに興味津々か?」

「ええ。たまにはワタシから聞いてもいいでしょう?」

「わかった! オレは食べたいものを食べている!」

「は?」

「言いづらい食べ物もあるぞ! 魔獣とかな!」

「あんた、野宿でもしてるの?」

「ああ! 師匠にならって、いまのシーズンは野宿期間なんだ!」

「へ、へぇ……」


 師匠とかいるんだ……。

 そう考えると、ワタシって温室育ちだな。

 ……って、それが普通でしょうが!

 危ない危ない、こいつの価値観に毒されるところだった。


「いまでも強いのに、これ以上強くなってどうするの?」

「魔王を倒す!」

「ふーん……」

「……って、師匠とかみんなの前で言ってるけど、実際は違う!!」

「えっ?」

「これはオレの野望だから、本来は誰にも言わない! というか言えない! 特に、魔族にはな!!」


 ゼノンがここまで引っ張ることか……。

 ものすごく気になるけど、ワタシには教えてくれるかしら?

 というか、友人だしいけるでしょ! よし、聞くぞ!


「ワタシにだけでも教えてくれる?」

「……うーん、絶対に他言するなよ?」

「ええ」

「魔王と和解する」

「わ、和解……?」

「ああ。勇者の血を継ぐ者で一番若いのはオレだ!」

「そ、そうなの……」


 なんかダジャレみたいね……。

 あと普通に声が大きいから、教室に残ってる魔導生からは注目されてるけど、いいのかしら……?


「だから、魔王を殺す義務があるのはわかっている! だが、魔王が悪いやつとも限らん!! 魔王の思想を理解したうえで、オレは倒すか、もしくは和解する道を選びたい!!」

「ふーん、そう……」


 腐っても勇者ね。

 無銭飲食したとしても、考え方は偉大というか……

 いや、ただバカなだけだったりして……ま、それはともかく!


「いい思想ね! ゼノンがもしよければ、ワタシも応援してあげなくもないけど?」

「すまないな! 応援してくれ!!」

「ええ。それで、どうやって魔王に会うつもりなの?」

「それは……わからん!!」

「は?」

「というか、魔王の姿すら知らん!! だが、いつか会ってみせる!!」

「そう……。頑張ってね」

「ああ! 先は長そうだ!」


 こんなやつが勇者で、本当に大丈夫なんだろうか?

 柄にもなく、そんな心配をしてしまうワタシだった。


   ◇


 放課後になって帰ろうとすると、ゼノンが頭を抱えてうなっている。

 どうかしたのかしら?

 こいつが悪いやつじゃないのはわかったけど、本当に助けるべきなのかな?

 ……ま、いいか。暇だし。


「……どうかしたの?」

「おおっ! マオか!」


 集中していたのかボケてるのか……

 引き続き話を聞いてあげるワタシ。


「『どうかしたの?』って聞いたんだけど?」

「ああ、実はな……」

「実は……?」

「実はオレ、こんなものをもらったんだ!」


 そう言ってゼノンが差し出したのは、手紙だった。


「ただの手紙じゃないの」

「ただの手紙じゃないぞ! これを読め!」

「えーと……? 『なにも言わずに魔導学校の屋上の広間に来てください』……か。これってラブ……」

「果たし状ってやつだ!! オレ、戦いが嫌いなんだ!」

「えっ!? 野宿期間だとか、師匠がいるって言ってたわよね?」

「『強い』のと『戦いが好きかどうか』は別だろう!!」

「ま、まあそうね……。そういうものかしら……?」

「だから、マオもついてきてくれ!」

「パス。一人で行きなさい」

「なんだと!?」

「果たし状なら、お得意の『雷魔法』で逃げればいいでしょう」

「『男だったら、戦いから逃げるな!』って師匠に言われてるんだ!!」

「あーもう、面倒くさいわね!!」


 というか、勇者なのに戦いが嫌いだとか、意味わかんないし!!


「じゃあ、仕方ないからついていってあげるわ」

「おおっ! 頼もしいな!」

「なんでワタシがこんなことを……。ていうか、手紙は一度ももらったことがないの?」

「ふははは! ラブレターとやらは何回かもらったことがある!!」

「ふーん、やるじゃない」

「だが、オレにはオーラがある! 自分に対する『好意』が能力のせいだと嫌なんだ!! だから、オレはオーラが効かないやつを好きになりたい!!」

「意外と一途なのね……」

「当たり前だ! 勇者たる者、浮気は駄目だからな!」

「あれ? 返事はどうしてるのよ? ラブレターをもらってもビクビクしてるの?」

「失敬な! ラブレターをくれた相手には、『オレは好かれるほど大層な人間ではない! 勇者だからな!!』と返している!」

「そ、そうなんだ……」


 勇者宣言は必要なのかどうかは、この際置いといて……


「ていうか、高速で動けるのなら、一瞬だけ確認してくれば?」

「……だが、人がいっぱいいたら怖いぞ!」

「あーもう! じゃあいっそのこと、無視して帰れば?」

「そうだな! でも、もし果たし状でなければオレはクズじゃないか!?」

「……勇者払いしてる時点でクズじゃない?」

「それは本当に申し訳ない! アレは歴代の勇者がやってきたことだったから……」

「歴代の勇者たち、結構ろくでもないわね……」

「オレの代から金はちゃんと払う!!」

「言っておくけど、それって当たり前のことだから」

「す、すまない……」


 まったく、世話が焼けるわね。


「それで、いつ行くの?」

「そうだな! 別に指定されていないし、もう少しマオと話がしたい!」

「なんでよ?」

「……うーむ、なぜと聞かれてもな……。話をするのに理由なんているか?」

「それもそうね」

「ああ! マオは手紙をもらったことはあるか?」

「うーん……同居人からはあるかな」

「ほう……! 魔族とは不思議なものだな!」

「いや……もらったと言っても、おままごとでだから」

「なんだ、魔族も案外普通だな!」


 いい年したおじさんたちにままごとをさせてたのは、いま思うと黒歴史ね。


「まあ、可愛がってくれたし……いい人たちだったわよ?」

「どういう関係だ!? 家族構成を教えてくれ!!」

「えーと、説明すると難しいんだけど、簡単に言えば、親が魔王軍の魔族なのよ。だから、何人で住んでるのかはわからないわね……」

「なるほど……! 確か魔王軍の人物にオーラは影響がないと、師匠が言っていたな!」


 一応、嘘はついてないわよね?


「ゼノンは? どんな家族構成なのよ?」

「うむ! オレの父は師匠の師匠だった! だが……」

「え? どうかしたの?」

「いや、いまは平和になったのと魔王と戦う必要もなくなったから、一族の長《おさ》を引退して隠居している。ゆえに、どこに住んでるかは知らぬ!」

「あぁ~、平和ボケしてる魔王軍の人がよくいたわね」

「おおっ! 思わぬ共通点だな!」

「……それで、他の人は?」

「師匠……オレの兄だ。兄は二人いて、一番上の兄が師匠だ! 下の兄は覇道を降りて、普通に働いている!」

「ふーん……」


 魔王軍にも下界に行った人もいるし、それと近い感じなのかな?


「じゃあそろそろ向かいましょう?」

「あ、ああ! 果たし状だな?」

「いや多分違うから」

「油断はするなよ?」

「だから、油断していいんだっての」

「行くぞ! マオ!」

「うん! でも、高速移動はやめてよね」

「わかった!」


 こうして屋上に向かうと、女の子が二人待っていた。


「ほら、行ってきなさい!」

「おう! 勇者たる者、気遣いができなくては困るからな!」

「……そうね」


 この後、ゼノンが女の子と向き合い、こう言い放つ。


「すまない! お前とは付き合えない! 勇者だからな!」

「……はい。ありがとうございました……!」


 告白が終わると、告白した子は顔を覆って去っていった。

 なんだかあっさりしていたけれど、こういうものなのかな……?


「さぁ、行くぞマオ!」

「う、うん……。それより、ゼノン?」

「なんだ?」

「あんた、いつもこんな感じなの……?」

「ああ! なんといっても、勇者だからな!」

「……そう」


 告白慣れしているゼノンが、少し大人に見えた。

 そんな夕暮れ時の放課後だった。


   ◇


 ほうきにまたがりワタシは下校する。

 

「ふぅ、今日はゼノンの珍しいところを見れたかも……」

「そうか! それはよかったな!」

「そうでもない……って、なんでついてきてるのよ!?」

「いいだろう! 家まで送り迎えしたって!」

「はぁ……まあいいけど、魔王城を見たら帰ってよね!」

「ああ! いいぞ!」


 こうして、帰路につくワタシたち。


「それにしても、帰ったらマオはいつもなにをしているんだ?」

「ペットに餌をあげたり、撫でてあげたり、乗ったりしてるわ」

「乗るのか!? でも、魔界のペットなら納得かもな!」

「ものすごく大きいから、よくみんなで乗ってマッサージしてあげるのよ」

「ほう……! なんだか楽しそうだ!」

「乗る? 頭が三つある犬だから、どの子が気持ちがるところとか、全部の子が気持ちがる場所を撫でてあげれば懐くわよ?」

「ほほう、ケルベロスだったか? 実在したんだな!」

「ええ。味覚が一頭ずつ違うから、餌の選び方が難しいのよね」

「……意外と大変なんだな!」

「ええ。そろそろ見えてくるわよ!」


 一瞬で空が紫色に染まり、辺りは稲妻がいくつも見える。


「ほう、魔界とはこういうものなのか!」

「ワタシについてきて!」

「ああ、わかった!」


 ワタシが通ったところ以外には罠が仕掛けられている。

 子どもの頃はよくかかって、パパたちを困らせたっけ……


「見て! 魔王城よ!!」

「おお……! 紫に染まった城って感じだな! まさに魔王城だ!」

「まあ、そうね……」


 ……って、見たまんまじゃないの。


「じゃあな! マオ!」

「ええ! あっ、そうだ。ゼノン!」

「……なんだ?」

「また明日!!」

「ああ! また明日! それじゃあな!!」

「ええ!!」


 去っていくゼノンを眺めながら、ワタシはつぶやいた。


「多分、あれは気付いてないわね……」


 でも、そっちの方がゼノンらしいものね!

 

 そう思いながら、自分の部屋へと直行するワタシだった。


   ◇


「あー……結局昨日も、徹夜でみんなと遊んじゃったわ……」


 そんな独り言を言いつつ、ワタシは寝不足で登校する。


「よう! おはよう、マオ!」

「はいはい、おはよう勇者」

「ゼノンと呼べ!」

「ふふん、たまになら呼んであげてもいいわよ?」


 そう言ってニヤリと笑いながらも、ワタシは口を開く。


「なーんてね! 行くわよ、ゼノン! 今日も宿題教えてよね!」

「ああ!」


 どうやらゼノンがワタシの正体に気付くのは、もう少し後の話になりそうだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


「魔王の娘が勇者に正体を気付かれないギャグファンタジーを書いたら面白そう」

そこから着想を得て、この作品を書き始めました。


今回は、なろう異世界ファンタジーフェス!2026への参加作品として投稿させていただきました。


ちなみに、本文ではテンポを優先し、二人の外見についてはあまり触れていません。


マオは紫色の髪でサイドテール。魔族なので黒白目。瞳は緑色です。

ゼノンは勇者らしく金髪の短髪、赤と黄色のオッドアイで、制服の上に赤いマントを羽織ってます。


戦ったり、世界を救ったりする話ではありませんが、

勇者と魔王の娘が、学校で宿題をしたり、ごはんを食べたり、くだらない話をしたり。

そんな二人のやり取りを楽しんでいただければいいなと思います。


ちなみに、ゼノンがマオの正体に気付くのは、まだまだ先になりそうです。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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