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くたびれた機械の逆襲

 どうすることもできないことが多すぎて、おれはもう何もしたくはないが、そうしたならそうしたで、謎の罪悪感に苛まれるというのだから、現在を生きる人間ってやつは本当にどうしようもない。ああ、ラクになりたい。ラクになりたくてたまらない。それは逃げですね。そうだよ。その通りですよ。逃げたくて逃げたくてしょうがないのに、ちっとも解放してくれやしないんだから。すっかり逃亡生活にうんざり疲れ切って、投降しようにも降れるところがどこにもないってのはどういう了見なんだ。結局いつかはなにもかもに立ち向かわざるを得ないわけですが、それだってそうしなければならないからそうしているだけで、一種の逃げであり敗北行為ですよ。決して勇敢なわけではないですね。おれに勇敢さなどがあるわけがない。いつだってびくびくおどおどしている挙動不審の小心者なのだからね。それでも、こうしていたい、こう生きていたいっていう理想だけは人一倍にあるのだが、もういい、諦めた。これからはなるべく他人と関わり合いになりたくないし、自分自身のことだって必要以上に構いたくはないのだが、この前ゴールデン街で飲んでいた時に見知らぬ二十代の男女三人といろいろとお喋りしたのは、とっても楽しかったですね。

 本当、おれってばお喋り好きで、特に知らない人とのお喋りが好きでたまらないのだが、でも別におれの方から話掛けたわけではなくて、ただ友人とひっそりと語り合っていたわけだが、おれの語り口のおもしろさに皆が惹きつけられて勝手に話掛けられてしまうわけで、こういうことは実際によくあることなんですね、おれが望もうと望むまいとに関わらず。最終的にはおれ自身も含めて二十代の男女三人以外の連中すらも巻き込んで、というか勝手に会話に入ってくるんだもんしょうがない、まあ実際にその場にいる全員をハッピーな気分にさせた自信も充実感もあるにはあるのだが、そういうのもなんか後々に謎の嫌悪感に苛まれることになるので、なっているわけで、もう本当にどうしようもない。

 こんなふうに、おれは自分でも制御不可能なくらいに気難しい人間なのだが、その気難しさが決して他人に向かうことはなく、もっぱら自分自身にしか向かっていかないのは、本当におれって人間が出来ているよなあという感じで、おれは感心しているわけですが、この聖性とも善性とも表現できそうなほどのおれの素晴らしい人間性を評価している人間をおれ以外に見たことがないのだが、それはつまり、おれの勘違いってやつであったりするのだろうか。もしくは、こんなのは特別なことではなくて、いたって普通の精神の在り方であって、ことさらに評価するほどのことではないっていう、そういうアレですか。それはまあ、全然あり得る話ではあるのだが、おれはそのあたりのことには懐疑的で、と言うのも、もしおれのようなやつがそこらじゅうにウジャウジャいるのであれば、おれは決して口を開こうともしないだろうし、こうして書いたりもしていないだろう、ということだ。

 おれはおれの特別性に従わざるを得ず、仕方なく、本当に仕方なくお喋りで他人を楽しませるし、その結果、おれ自身も最高に楽しくなるにはなるのだが、その一方でそれはおれが真に望んでいることではないので、周囲の幸福のためにおれはおれに絶え間なく負荷を掛け続けなければならず、そんな状態がおれに良い影響を与えるわけがないのは明白だ。そんなのはおれが自発的にしていることじゃん、自業自得じゃん、そう思うかもしれないが、そうではない、そうではないのだ。どこかからの強制的な要請がおれをそういった行動に駆り立ててしまうのであって、つまりはそれがおれの運命ってやつなのだろうが、おれはもうそんな運命には従いたくはありませんよってことで書かれているのが、こいつってわけなので、はい、証明完了。

 これでも納得できないってやつはもう知りません。これだけやってやったってのに。超絶苦手な説明を頑張ったというのに。本当にクソな連中ばかりで吐きそうになる。ちったあおれを見習いやがれって話なんだよ。運命に従順でありながら、そんな自分には決して納得せず、こうして人知れず反抗にも手を染めているおれを褒めそやしやがれって話なんだが、まあ本心を言ってしまうと、おまえらなんぞに褒められたかねえよってことなので、いいんだよ、きみたちはそのままで。


 AIという自己模倣の神的存在が生まれてしまった結果、これ以降はもはや共鳴や共振に価値を見出すことは困難になり、更なる同化や一体化が凄まじい速度で進んでゆくことが予想されるわけで、個なんてものは大したもんじゃないという巧妙に隠されていた単なる事実が常識的なレベルで再確認されることになるだろうが、つまりはまあ、おれのように自意識全振りなやつはこれまでも不必要だったが、これからますます不必要になってくるってことだろう。

 適当にそれっぽいことを書いてみたのだが、なんだか本当にそんな気がしてきました。恐ろしいですね。でも、嫌な感じはしないね。人間に駆逐されるよりもAIに駆逐される方が、駆逐される側といたしましては納得感というか、救済感がありますよ。もともとおれは人間という生物に嫌悪と疑問を抱いていたし、非人間的な営みに生が移行してゆくのは歓迎したい。もっとも、そこにおれの居場所は用意されてはいないだろうが、オールドタイプはさっさと滅びてしまった方がいいわけで、あらゆる権威や価値が再検討され無力化し、それで人類がラクに生きてゆくことができるのならそれに越したことはないですね。結局はいまAIに恐怖している連中ってのは、自己を中心に据えているつもりの連中であって、まあハナっから中心なんてものは存在しないのでね。自己なんてくだらないものに拘り続けるのはやっぱり辛いことしか生まれません。

 そう考えてみると、現在の社会状況の混乱もオールドタイプの断末魔なのかなって気もしてくるし、それはそれで微笑ましくもあり、もちろん醜くおぞましくもあるし怒りを覚えることだらけだが、まあおれたちあとは死に腐るだけだから、なにも恐怖することなどありゃしないですよ。弱虫どもは本当に恐怖に弱いね。すぐに怖がっちゃう。情けないね。もうおれたちの役目は終わったんだ。おれたちに出来るのはそれぞれがただ存在することだけで、それはむしろ最初からそうだったんだよね。長年に渡る意味や価値による支配からようやく解放されようとしているのに、なにを恐れることがあるのかおれにはさっぱりわからないが、いや嘘かも、ちょっとはわかるが、むしろ結構わかってしまうが、それはおれもまたオールドタイプであるからで、こればかりはもう仕方ないのですね。未知のものは怖い。それはしょうがない。

 で、ここで華麗にタイトルを回収しようとしてしまうと、くたびれた機械なんてものはもう使い物にならんわけで、新しい機械にその座を奪われるしかない運命なわけですが、それでも、くたびれた機械はくたびれた機械として時代に置いてけぼりをくらいながらも存在し続けるしかない、あるいは自らを破壊するしか道はないので、辛いけど怖いけど、それはまあわかるけど、もうどうにもなりゃしないから、諦めてくたびれてゆきましょうってことを、おれは表現しようとして、つまりは急速に神化してゆくAIとの対比でこういうタイトルをつけたのだとしたら? タイトル回収は結局出来なかったが、まあそういう深いっぽく見える理由があるのなら、おれもくたびれた機械というタイトルをちょっとは認めてやってもいいかもしれん。AIのことなどさっぱりわからんし興味もないが。

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