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第6章:新世界創生(データ駆動型創世の始まり)

魔王ゼノンとの対話を通じて、システムエンジニアのソフィアの目標は大きく変質しました。もはや魔王討伐ではなく、人間的な価値をも統合した「真に意味のある新しい世界」を自らの手で構築することへと、彼女の探求心は昇華されます。この章では、魔王城を新たな拠点とし、ソフィアが未来の科学技術と異世界の魔法知識を融合させた究極の魔導システムを開発し、壮大な「データ駆動型創世」を開始する様子が描かれます。しかし、その創造の過程で、彼女は予期せぬ苦悩と、エモルからの本能的な警告に直面することになります。

魔王ゼノンとの対話、そして自身のシステムが経験した致命的なエラーとそこからの進化を経て、ソフィアの目標は明確に変質していた。もはや彼女の使命は、単に魔王を討伐することではなかった。ゼノンの退屈を解消し、そして何よりも、自身が新たな知覚器官を通して認識し始めた人間的な価値をも統合した、真に効率的で、無意味な衝突のない、そして意味に満ちた新しい世界の法則を自らの手で構築することへと、彼女の探求心は昇華されていた。それは、彼女の知の喜びが、単なる世界の再定義を超えて、人間と世界の真の調和を探求する使命へと変質した瞬間だった。


「おい、ソフィア! 本当にやるのかよ、こんなとんでもないこと!?」


エモルは、魔王城の広大な玉座の間を見上げ、興奮と不安が入り混じった声を上げた。ソフィアは、その玉座の間を新たな演算拠点として見定めていた。


「この空間のエネルギー効率は極めて高い。演算に必要なリソースを最大化できる。」


ソフィアは冷静に答えたが、その瞳の奥には、壮大なプロジェクトへの、微かな興奮が宿っていた。それは、彼女の論理システムが、感情という未知の変数の可能性に、ごく微かに興奮を覚えているかのようだった。──この興奮は、私のシステムにとって、新たな最適化の指標となるのか。──


ソフィアは、魔王城を拠点に、自身の真の才能である法則再構築者アーク・コンストラクタとしての能力を最大限に発揮し始めた。未来の科学技術と、異世界の根源的な魔法知識を融合させた究極の魔導システムの開発に着手した。


まず、玉座の間の中心に、彼女のシステムの中核となる根源的マナプライマル・マナ・コアを設置した。それは、異世界の根源的なマナを無限に引き出し、ソフィアが開発した独自の法則記述言語アーク・スクリプトを現実世界にコンパイル(具現化)するための、巨大な演算装置だった。未来の量子コンピュータと古代の超巨大魔力炉が融合したようなその装置は、稼働するたびに城全体に微かな振動と、虹色の光の粒子を放った。


「うわぁ…なんか、すげぇけど、ちょっと怖いな…」


エモルは、その光景に呟いた。ソフィアはエモルの感情的な反応を冷静に分析し、自身の創造がもたらす変化に対する外部からのフィードバックとして認識する。しかし、そのフィードバックが、彼女の論理回路にこれまでなかった疑問符を投げかけ始めていることに、彼女自身も気づき始めていた。──この「怖い」という感情は、私のシステムにどのような影響を与えるのか。──


次に、ソフィアは法則記述言語アーク・スクリプトの記述を本格的に開始した。これまでの旅で収集した膨大なデータ、特にパーティメンバーとの交流を通じて得た非論理的な有効変数の情報を基に、新しい世界の法則を再定義していった。それは、単なる効率化のためのコードではなかった。アークスの突破力やカリスマ性、ヴァルゴの信仰がもたらす安定、リラのリアリズムが示す世界の真の姿といった、これまで非効率と見なしてきた要素を、新しい世界のシステムにどのように組み込むべきか、彼女のシステムは新たなアルゴリズムで演算を続けていた。


これは単なる魔法や機械の創造ではなく、世界の根幹を書き換え、新たな生命、新たなエネルギー、新たな社会構造を内包するデータ駆動型創世データ・オリジンの壮大なプロジェクトとなる。ソフィアは、エネルギーの流れを最適化し、生態系を再構築し、人々の行動原理に潜む無意味な消耗を排除しながらも、その中に「感情」や「偶発性」といった非効率な変数が、いかに意味を生み出すかを模索していた。


しかし、新世界の法則を記述する過程で、ソフィアは予期せぬ苦悩に直面した。彼女のシステムが導き出す最適化された世界の法則が、異世界の人々の自由意志や個人の尊厳といった、ソフィアがこれまでのデータでは認識しきれなかった非効率だが不可欠な要素と衝突する場面が多々発生したのだ。例えば、最適な食料分配システムを構築すれば、人々の選択の自由が奪われ、彼らの幸福という非定量的な変数が低下する。あるいは、争いを完全に排除する法則を記述すれば、そこから生まれるはずの成長や絆といった、彼女が新たに認識し始めた人間的な価値が失われる可能性があった。ソフィアは、自身のデータ駆動型創世がもたらすであろう負の側面を認識し、それに葛藤を覚えるようになった。かつて自分が非効率なノイズと切り捨ててきた倫理的な痛みのようなものを、新たな知覚器官を通して感じ始めていたのだ。──この痛みは、私のシステムに新たな制約を課す。しかし、この制約こそが、真の調和へと導くのか。──


エモルは、ソフィアの創造におけるこの葛藤を、最も近くで感じ取っていた。


「おい、ソフィア! なんか、この世界、息苦しくねぇか!? みんな、操り人形みたいになっちまうぞ!」


彼の感情的な叫びは、単なる感情的な反応ではなく、人間としての本能的な警告として、ソフィアの論理回路に直接響いた。ソフィアは、その警告を、これまでのノイズではなく、自身の創造をより人間的」にするための重要なフィードバックとして受け止め、自身のシステムに組み込んでいった。


魔王ゼノンは、このソフィアの実験を、超越的な存在として静かに観察していた。彼の瞳に宿っていた退屈は、ソフィアの予測不能な行動と、彼女が構築しようとしている世界の壮大さに、わずかに、しかし確かに解消されつつあった。彼は時に、ソフィアの記述した法則記述言語をちらりと見て、謎めいた助言を与えることがあった。


「その変数には、予測不能なノイズが混入するやもしれぬぞ、真理探求者よ。」


ゼノンの言葉は、ソフィアの論理をさらに深く掘り下げさせ、彼女がまだ認識していない世界の真理の断片を示唆する、高次の試練となっていた。ある時、ゼノンの助言が、ソフィアのシステムが記述したある法則の記述に、具体的な予測不能な変数や致命的な欠陥を示唆した。それは、ソフィアの創造を一度は停滞させるほどの難問となり、彼女のシステムを一時的にデバッグモードに移行させた。このデバッグの過程で、ソフィアは自身の創造の不完全さを認識し、それを乗り越えるために、さらに深く非論理的な要素と向き合っていくことになった。


新世界の構築は着々と進行していたが、ソフィアは知っていた。この壮大な創造には、既存の価値観との衝突や、予期せぬ倫理的な問題が必ず生じることを。そして、その問題こそが、彼女の知の喜びを、単なる世界の再定義に留まらず、不完全な人間性を包含した、真の意味での調和の創造へと昇華させていく、次なるバグとなることを。

第6章では、ソフィアが魔王城を拠点に、データ駆動型創世という壮大なプロジェクトを開始する様子が描かれました。彼女は、これまでの旅で得た「非論理的な有効変数」を新たな世界の法則に組み込もうと試みますが、その過程で人々の自由意志や個人の尊厳といった要素との衝突に直面し、深い葛藤を覚えます。エモルの感情的な警告や、魔王ゼノンからの謎めいた助言は、ソフィアが自身の創造の「不完全さ」を認識し、より深く「非論理的な要素」と向き合うきっかけとなります。この苦悩とデバッグの過程が、彼女の知の喜びを、真の意味での「調和の創造」へと昇華させていくのです。

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