表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

物体と精神

「魔法使いとは、読んで字のごとく魔法を使う者。しかし人間とは限らない。我が母様と敬う魔法使いは、元は廃棄物。ただのゴミであった廃棄物に意思が芽生え、思考が生まれ、行動を覚え、存在を確立した。それが母様だ。その過程で魔法を習得した母様は、より高度な動きをする為に、同胞を用いて体を形成した。母様は言った。魔法とは信じる信じないの領域にあらず。魔法とは無意識に不要と見なされた能力。誰もが初めから持っているのに、誰もが初めから捨ててしまう。我は疑問に思った。何故、魔法は忘れてしまうのか、と。神と呼び親しまれている存在の細工か、あるいは強大な力を恐れた本能から来る忘却か。母様はその両方だと言った」  


 遠山楓は魔法使いではないアタシ達に構う事無く、淡々と言葉を続けた。一つ理解しようとすれば、十の難題が浮かび上がる遠山楓の言葉に、アタシの脳は既にパンクしていた。


 しかし、隣で一緒に聞いていた霞は違った。目の前で浮かび上がる字を読み解くように瞳を動かし、それを読み終えると、遠山楓の次の言葉を待っていた。霞が理解している事を察してか、遠山楓は微笑する。


「魔法についても教えましょう。とは言っても、我もまだ未熟者故、全てを完璧に説明する事は出来ない。それを承知の上で聞き、そして見てほしい」


 遠山楓は右手の人差し指を立てながら、中指と親指で指を鳴らした。パチンと指が鳴る音の後、立てていた人差し指の先にロウソクの火のような小さな火が灯った。


「まるでマジシャンだな……熱くないのか?」


「いいえ」


「でも、指の先から火が出てるぞ?」


「そう見えるだけで、実際は違う。言わば、この手と火は別々の写真。それを重ねて、まるで指の先から火が出ているように見える」


「……つまり、魔法は私達がいるこことは別の場所から呼び寄せる、とか?」


「素晴らしい! 物体と精神。その中間にある扉を開くのが魔法。魔法とは鍵を意味する」


「分かったような、分かんねぇような……駄目だ、分かんねぇ」   


「霞さんとは違い、貴様は全く素質が無いな……」


「無くていいやい! そんな気持ち悪い特技!」


「高尚な能力に対して何て言い草だ! 無礼者!」


 馬鹿にされて怒ったのか、遠山楓はアタシに襲い掛かってきた。摩訶不思議な能力を持っているが、フィジカルに関しては音々にも劣る。襲い掛かってきた割には呆気なく、簡単に組み敷く事が出来た。涙目になりながら必死に逃げようとする遠山楓の姿に、無様を通り越して憐れに思えてきた。 


「弱すぎだろ。ちゃんと飯食ってんのか……いや、食ってるな。じゃあ何でそんな弱いんだよ」


「わ、我は魔法使いだ! 暴力など邪道だ!」


「邪道だろうが負けたら意味無いだろ。そんでもって、そろそろ本題に入っていいか? あのノッポの魔法使いに会わせろ」


「ことわ―――イデデデ! 暴力反対! 暴力反対!!」


「話にならねぇな。せっかくお前の話を真剣に聞いてやったのに、結局お前が言いたいだけ言っただけじゃねぇか。魔法の前に一般常識と会話スキルを磨いとけ」 


「ねぇねぇ、時雨ちゃん! 見て見て!」


 霞の方を見て、アタシは目を疑った。霞の右手から炎が燃え上がっていた。遠山楓のような小さな火ではなく、霞の右手を燃やし尽くす勢いの炎。体温が急激に下がっていくのを感じた。


 しかし、アタシの心配をよそに、霞は目をキラキラと輝かせながら炎を見つめていた。よく見ると、炎に包まれながらも袖はそのままだった。燃えているように見えるが、実際は燃えていない。見て聞いた魔法を霞は思うがままに扱えている。


 それが異常な事なのは、目と口を大きく開いて驚いている遠山楓で確信した。


「霞、お前どうやって……」


「え? 結構簡単だよ?」


 オモチャに飽きた子供のように、霞は炎を消した。炎に包まれていた右手には、焦げ跡一つ無かった。    


「ねぇ楓さん。火の他に、どんな魔法があるの? 色々と見せてよ!」


「バ~カ! 調子乗んな! たまたま上手くいっただけで、次も成功するか分かんねぇぞ。怪我でもしたらどうする。いや、怪我で済めば幸運か」


「あー、時雨ちゃんってば。自分が出来ないからって、私の成功を妬まないでよ~」


「なっ!? アタシは、お前の身を案じてだな―――あ?」


 ふと、遠山楓の方へ視線が移った。遠山楓はブツブツと何か独り言を唱えながら、親指の爪を甘噛みしていた。眉間にシワを寄せ、下を向く瞳が左右に揺れ動いている。考え事、というより、疑問が浮かんだようだ。


 しばらく静観していると、遠山楓は急に動き出し、一枚の大きな紙を床に広げた。一般的に流通している紙とは質感が違い、丸めた状態から広げても折り目が一切無い。その紙に遠山楓は白いチョークで円状の何かを描き始めた。


「……母様に、聞かなければいけない事が出来ました」


「それじゃあ、会わせてくれるんだな?」


「ええ。むしろ、一緒に来てください。暴力は嫌いですが、暴力が必要になるかもしれません」 


 遠山楓が描き上げたソレは、あの日ノッポの魔法使いを家に呼ぶ時に描いたものと同じだった。アタシ達は遠山楓に手を引かれ、その魔法陣の中に入れられた。


 すると、足元の魔法陣から眩い光が発生し、その光はアタシ達の体を飲み込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ