禁じられるべき遊び 上
時雨ちゃんのお尻を叩いてみた。パンッと響きの良い音に被せるように、時雨ちゃんは声を上げた。まるでスカートがめくれそうになった時の女子の声。
そして、私の中にある遊び心が爆発した。
「スカートめくり、やってみたい」
「アタシのケツ叩いておいて言う言葉がそれかよ。まずは謝罪だろ」
「ソーリー。それじゃ、スカートめくり大合戦しよ」
「胡桃! 音々! この馬鹿どうにかしてくれ!」
「スカートだけって、あったっけ……?」
「無かったら私の貸してあげる。サイズが合わなかったら折れば良いし」
「この家には馬鹿しかいないのか!? 自分で言うのもなんだが、見た目的にアタシが一番馬鹿なはずだろ!? なんでいつもアタシが真面目枠になるんだ!?」
「大丈夫だよ、時雨ちゃん。他のみんながどう思ったって、私だけは時雨ちゃんの事を馬鹿だと思ってるから」
「なんでそんな母親面出来るんだよ諸悪の根源。よく見たら微笑んでるんじゃなくて、ほくそ笑んでるじゃねぇかブッ飛ばすぞ?」
こうして、血で血を洗う地獄の遊び。スカートめくり大合戦が始まった。
淫魔王胡桃。
マスコット音々。
赤顔時雨。
開催者の私が言うのもなんだけど、ふざけた遊びだ。そもそもスカートめくりなんて、今時男子小学生でもやらない。今の私達は小学生以下、つまり幼稚園児という訳か……まったく意味が分からない。
「よーし! みんなスカートを履いたね。それじゃあ、血で血を洗う地獄の遊び! スカートめくり大合戦を―――」
「待った。これはどういう遊びなの?」
「スカートをめくる。以上!」
「分かり易い遊びだね……」
「遊びは遊びでも、勝者には何かご褒美が欲しいわね。その方がやる気が上がるじゃない」
「そうだね。う~ん、ご褒美か~。時雨ちゃんは何がいいと思う?」
「……な、なんでも、いいから……早く、終わってくれ……!」
「恥ずかしがってるの? 別にアンタも女なんだから、スカート履いたっておかしくないでしょ。まぁ、アンタのスカート姿は豚に真珠って感じだけど」
「こ、殺して、くれ……!」
思えば、小さい頃から時雨ちゃんがスカートを履いた姿を見た事が無かった。中学の頃も、どれだけ先生達に注意されても、制服じゃなくてジャージで登校してきたし。そう考えると、今の時雨ちゃんの姿は二度と見る事が出来ない貴重な瞬間なのかもしれない。
半泣きになりながら、歯を喰いしばって恥ずかしさに耐えているのも合わさって、音々とは別ベクトルの愛らしさがある。
なるほど、これがギャップ萌えか。
「凄く可愛いよ、時雨ちゃん……!」
「お可愛いこと」
「感想言ってねぇで早く終わらせるぞ! くそっ、こんな屈辱は初めてだ……!」
「時雨ちゃんが早々にリタイアしそうだから、とりあえず始めよっか。ご褒美は勝者が決めるって事で。それでは……始め!!!」
開始の合図をすると、先に動いたのは時雨ちゃんだった。その標的になったのは胡桃ちゃん。
「お前さえ倒せば、後は楽勝だろ!」
およそスカートめくりを仕掛けに行くとは思えない程に、時雨ちゃんは前傾姿勢のまま低く構え、素早く間合いを詰めた。そのフォームと動き方は、いつかテレビで観たレスリング選手のものと遜色ない。果たしてスカートをめくるだけで済むのだろうか。
しかし、やっぱり時雨ちゃんは思い切りが良い。いきなり優勝候補の胡桃ちゃんを狙うなんて。
「フッ」
「なっ!?」
私は信じられない光景を目にした。スカートをめくりにいった時雨ちゃんに対し、胡桃ちゃんは時雨ちゃんの顔面に膝を突き刺した。なまじ時雨ちゃんに勢いがあった分、胡桃ちゃんの膝蹴りの威力は増している。ノリで言った地獄の遊びが正しく顕現している。
「馬鹿正直に真正面から向かって来るなんて、本当に馬鹿ね。アンタのスカートをめくるのに手を使うまでもない」
床に倒れた時雨ちゃんを鼻で笑うと、胡桃ちゃんは足のつま先で時雨ちゃんのスカートをめくった。
「……さて。残るは二人。音々と、か・す・み」
「なんで私だけネットリと呼んだの……!?」
「音々」
「ひゃい……!」
「この馬鹿みたいになりたくないよね? 痛いのは嫌だよね?」
「い、嫌です……!」
「私も音々に痛い思いをしてほしくない。そこで提案なんだけど、手を組まない? アナタは霞を抑えつけるだけでいい」
「共闘!? そんなのズルだよ!」
「だ、大丈夫だよ霞ちゃん……! 私は、ズルなんてしない……! 例え痛い思いをしても……!」
「私が勝ち残った暁には、霞の体を一日好き放題するつもり。協力してくれたら、音々も特別に―――」
その時、視界の端にいたはずの音々の姿が消えた。音々に背中から抱き着かれて、ようやく背後に回られた事に気付いた。
「ごめんね、霞ちゃん……! 私も霞ちゃんの体、触りたい……!」
「裏切り者!!! でも可愛いから許す!!!」
「アッハハハ! これで私の勝ちは決まったも同然! 合法的にアナタを好き勝手に出来る機会を狙っていたけど、まさかアナタ自身からくれるなんて! とんだサプライズプレゼントよ!」
恍惚とした表情でにじり寄って来る胡桃ちゃん。まるで、私達よりも上の世代がお札を数える時にしていたように、右手の指の先端を一本ずつ舐めながら。
今になって、私は後悔している。こんなふざけた遊びをするべきではなかったと。