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大事な思い出

 音々の家に四人で住む事を決めてから早二週間。残るは時雨ちゃんだけなのだが、一向にやってくる気配が無い。いつでも退去出来るらしいけど、部屋の片付けが終わらない所為で、中々越してくる事が出来ないようだ。そこまで手間取る程、時雨ちゃんの家に物があったかな?


 そんなわけで、今日は三人で時雨ちゃんの片付けを手伝う日だ。


「ねぇ、本当にやる気あるの?」


 開幕早々、胡桃ちゃんが激怒している。それもそのはずだ。私達はてっきり一人では片付けられない物の量や、一人では移動できない重い物があるから苦戦しているのだと思っていた。 


 しかし、実際は違った。私が居た時よりも汚くなった部屋と溜まったゴミ袋。仕分け用に用意したと思われる段ボールはテーブルとして利用されていた。


「アンタさ、体力仕事して疲れるのは分かるけど、これはいくらなんでも怠惰過ぎるでしょ」


「し、仕方ないだろ! アタシが掃除をするのは掃除の時間ってものがあったからで―――」


「子供みたいな言い訳しないでくれる? ゴミ愚図」


「あわわ……!」 


 まずい、音々が怯えてる。時雨ちゃんが胡桃ちゃんに半殺しにされてもどうとも思わないけど、音々が怖い思いをするのは駄目だ。


「はいはい。二人共、陽が暮れるまで喧嘩するつもり? 早く終わらせて、美味しい物でも食べようよ」


「……そうね。少し、冷静さを失ってた」


「ハハハ! 霞に諭されてやんの!」


「時雨ちゃんって何に分類されるのかな?」


「え、分類?」


「燃えるゴミでしょ」


「燃えるゴミ!?」


「ふ、二人共……! 時雨ちゃんを燃やしちゃ駄目だよ……!」


「音々~!」


「せめて資源ゴミにしてあげなきゃ……」


「ゴミは認めてるんかい!」


 こういう冗談を真面目に反応する時雨ちゃんは、からかい甲斐があるし、悪くなった空気を良くしてくれる。胡桃ちゃんもそれを見越して、私の冗談に乗ってくれた……んだよね?


 そうして、時雨ちゃんの部屋の片付けが始まった。使う物・使わない物に分けていくが、ほとんどが使わない物へと分類されていく。どうしてこんなに使わない物を溜め込んでいたのか聞いてみると「いつか捨てようと思ってた」と時雨ちゃんは言った。そのいつかは一体いつだったんだろう。


 一時間が経過し、部屋の中は大分片付けられた。やっぱり四人もいれば、作業も捗る。


「あれ? これって」


 見つけたのは、オモチャの指輪。おそらくオモチャの宝石が嵌められてた所には、強引に引き千切った痕があった。


 私がその指輪の事を思い出すのと、時雨ちゃんが私の手から指輪を奪い取ったのは、ほぼ同時だった。

 

「時雨ちゃん、それって」


「どうしたの? え……アンタって、オモチャの指輪をアクセサリーとして使ってるの?」


「ち、違う! 別に使ってねぇ!」


「じゃあゴミね」


「捨てない!」


「胡桃ちゃん……きっと、時雨ちゃんにとって大事な物なんだよ……」


「……ああ。これは、大事な物なんだ。憶えてるか、霞。この指輪の事を」


「うん。憶えてるよ」


 時雨ちゃんが手の平に乗せているオモチャの指輪が、私と時雨ちゃんが友達になったキッカケ。


 まだ小学生になる前の頃、公園にあった滑り台の陰で座り込んでる女の子がいた。


『そんな所で何してるの?』


『ヒェッ! え、だ、誰……!?』


『霞だよ! アナタは?』


『……時雨』


『じゃあ時雨ちゃんだね! それで、こんな所で何してるの? かくれんぼ!?』


『ううん……これ、貰ったんだ』


『可愛い指輪だ!』


『うん……だから、どうしようと思って』


『どうしようって?』


『アタ……わたし、可愛い物が苦手なんだ……だから、せっかくパパとママが買ってくれたのに、全然嬉しくなれない……』  


『ふ~ん。ちょっと貸して!』


『え? いいけど……』


「それで霞の奴、目の前で宝石部分を引き千切ったんだ! そんでもって極めつけは「これで可愛くなくなったよ!」だってさ。酷い奴だよな……」


 胡桃ちゃんと音々から向けられた事が無い視線を向けられてる。もし私が分身出来るのなら、私だって同じ目で私を見るだろう。子供のやる事といえど、あまりにも破壊的な思考だ。


「か、霞ちゃんは、どうしてそんな事を……?」


「だって、宝石が付いてる可愛い指輪だから嫌だったんでしょ? じゃあ宝石の部分を失くせば、普通の指輪じゃん!」


「サイコパスの思考じゃん……」  


「ハハハ! まぁ、確かに面喰らったよ。コイツは一体どういうつもりで初対面の相手の物を壊したんだって。でもさ、その瞬間に胸の中にあったモヤモヤが一気に無くなって……凄く、熱くなったんだ」


「え!? な、なんで!? もしかして風邪ひいてたの!?」


「そういうわけじゃねぇよ。ただ単純に、お前に惹かれたんだ。ぶっ飛んだ思考を持っていて、初対面の相手に遠慮が無くて……太陽が霞む程に、眩しい笑顔を浮かべたお前の姿に。だから、これは捨てられない! アタシの、大事な思い出なんだ」


 そう言って指輪を見つめる時雨ちゃんの表情に、少女だった頃の彼女を思い起こした。


「思い出話はその辺で。あともうちょっとで終わるんだから、手を止めずにやり切るわよ!」


「「「おー!」」」


「終わったら時雨の金で焼肉だからね!」


「え……」


 その後、お昼前に片付けは終わったけど、時雨ちゃんが金欠な事もあり、スーパーで買った特売のお肉で焼肉をした。時雨ちゃんは何度も謝ってたけど、私も音々も、胡桃ちゃんもガッカリなんかしていない。


 例え特売品でも、四人で囲んで食べられるのが、最高のご馳走だから。

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