先行き不安
時雨ちゃんが買ってきてくれたたこ焼きの粉を使って、お好み焼きパーティーだ。たこ焼きをやろうにも肝心のたこ焼き器が音々の家に無く、結果似たような作りのお好み焼きになった。
カセットコンロをテーブルの上に置き、四人でフライパンが熱されるのを眺める。もう十分に熱されたにも関わらず、誰一人として動こうとしない。
「胡桃。お前生地流せよ」
「なんで私が。買ってきたアンタがやりなさいよ」
「アタシは霞に言われてこれ買ってきたんだ。という事は、霞がやるべきか」
「いや、ここは家主の音々が」
「え……!?」
「……やっぱり霞ちゃんで」
「アタシはお前の召使いじゃねぇんだぞ? 飯の買い出しに続き、飯の用意もしなきゃいけないのかよ。絶対にやらんぞ、アタシは」
三人で時雨ちゃんをジッと見続けた。時雨ちゃんは必死に視線から逃れようとしていたけど、やがてため息を吐き、袖を捲り始めた。
「作るからには、アタシの好きに作らせてもらうからな」
「イカとタコ入りで」
「あんまりマヨネーズつけないで……」
「具無しのソースとマヨネーズでお願いします」
「……勘弁してくれよ」
そこからの時雨ちゃんの活躍は凄かった。木べら一つで綺麗にひっくり返し、完璧な焼き目で私達の注文を見事作ってくれた。その手際と出来栄えに、さすがの胡桃ちゃんも文句は言えなかった。
四人それぞれが一枚を完食した後も、生地はあと二枚分は残っていた。お腹の空き具合は程々で、全員の好みが違う為、急遽お好み焼きからもんじゃ焼きに変わった。
「それでよ、霞。なんでいきなり音々の家に住むなんて暴挙に出たんだ?」
「居てほしいってお願いされたから」
「音々、考え直せ。お前がコイツに何を期待してるか分かんないけど、何一つとして期待に応えてくれないぞ?」
「大丈夫だよ……! 霞ちゃんのお世話は、私がするから……!」
「意義あり。霞のお世話なら、私がするわ。もうお世話した事あるし。ねぇ、霞」
「怖いからヤダ」
「ハッハハハ! お前断られてやんの―――って、泣いてんのか胡桃?」
「酷いわ、霞……! あんなに、あんなに……あんなにエッチな事させておいてお預けなんて!」
「やっぱそういう事してやがったか淫魔獣が!!! それから霞! お前いい加減学習しろよ!?」
「ワンチャンに賭けたんだよ!」
「ノーチャンなんだよ最初から! 音々、今からでも遅くない。コイツ住まわせるのはやめとけ。その内この家自体が爛れる事になる」
「……私も、霞ちゃんとエッチしたい」
その音々の発言を聞いた私達は、それぞれ違う反応をした。私は音々の口から出ると思わなかったワードに驚き、胡桃ちゃんはチャンスと言いたげな笑みを浮かべ、時雨ちゃんは絶望した。
結局、もんじゃ焼きを食べ終えるまで、誰が私を飼うかの議論は続いた。私は犬ではないが、今は人としてのプライドを持つ程、余裕がある状況ではない。誰でもいいし、出来れば音々に飼われるのが最善で最高の結果だ。
議論の末、まとまった結果はシンプルなものであった。
「よし、話をまとめよう! アタシら四人でここに住む。当然アタシと胡桃は毎月家賃を払うし、霞には家事をやらせる。そしてルールとして、霞には手を出さない。一度でも行為に及ぼうものなら、即刻家を出てもらう……これでいいか? 特に胡桃」
「なんで私に念を押すのさ。はいはい、賛成ですよ。要はここで行為に及ばなければいいのね?」
「ここでも外でも駄目だ!」
「それよりさ、アンタが仕切ってるのが気に入らない。ここの家主は音々だし、音々に是非を問いましょう」
「音々! お前は良い奴だ! そしてアタシと同じ純粋な奴だろ?」
「たまになら、いいかな……!」
「こんのムッツリスケベがぁぁぁ!!!」
「まぁ元気出しなさいな。三人で楽しんでる所をアンタに聞かせてあげるから」
「なんで仲間外れにするんだよ! アタシも混ぜ―――おいおいおいおい! 今アタシを嵌めようとしたな?」
「二人共楽しそうだね~」
「うん……でも、これからは四人でもっと楽しくなれるよ……!」
こうして、私だけが住むはずだった音々の家に、二人も追加で住む事になった。




