桜を探す会4 呼んでる声
桜を探す私達の旅は難航し、気付けば日が暮れ始めていた。私の計算では四ヶ所目で日が暮れるはずだったのに。理由があるとすれば、桜を探す事よりもお喋りに時間を割いたのが原因だろう。このまま三ヶ所目に行ったとして、四ヶ所目に向かう時には完全に夜になる。夜になるのはマズい。だって、本命の五ヶ所目は夜でなければ意味が無いのだから。
「時雨ちゃん。計画変更。今から五ヶ所目に向かいましょう」
「すっ飛ばしたな。別に良いけど、五ヶ所目って最後に設定した所でいいんだよな? そこ、森の中だったぞ? 着く頃には夜になっちまう」
「だから好都合なんだよ!」
「は?……お前、五ヶ所目がどんな場所か言ってみろ」
「絶対に桜が見れる場所! でも夜じゃなきゃ駄目!」
「なんで夜に固執するんだ? その理由も言ってみろよ」
「……時雨、一旦車停めて。見てほしいものがある」
胡桃ちゃんに言われ、時雨ちゃんは車を端に寄せて停めた。時雨ちゃんはコーヒーを飲みながら胡桃ちゃんの携帯の画面を覗き込み、噴き出した探す私達の旅は難航し、気付けば日が暮れ始めていた。私の計算では四ヶ所目で日が暮れるはずだったのに。理由があるとすれば、桜を探す事よりもお喋りに時間を割いたのが原因だろう。このまま三ヶ所目に行ったとして、四ヶ所目に向かう時には完全に夜になる。夜になるのはマズい。だって、本命の五ヶ所目は夜でなければ意味が無いのだから。
「時雨ちゃん。計画変更。今から五ヶ所目に向かいましょう」
「すっ飛ばしたな。別に良いけど、五ヶ所目って最後に設定した所でいいんだよな? そこ、森の中だったぞ? 着く頃には夜になっちまう」
「だから好都合なんだよ!」
「は?……お前、五ヶ所目がどんな場所か言ってみろ」
「絶対に桜が見れる場所! でも夜じゃなきゃ駄目!」
「なんで夜に固執するんだ? その理由も言ってみろよ」
「……時雨、一旦車停めて。見てほしいものがある」
胡桃ちゃんに言われ、時雨ちゃんは車を端に寄せて停めた。時雨ちゃんはコーヒーを飲みながら胡桃ちゃんの携帯の画面を覗き込み、コーヒーを噴き出した。
「わっ!? もぉ~、時雨ちゃん! レンタカーなんだから気を付けてよ~!」
ハンカチで飛び散ったコーヒーを拭き、拭き終わって手を引こうとした所を時雨ちゃんと胡桃ちゃんに止められた。胡桃ちゃんは優しく手を握ってくれてるけど、時雨ちゃんは痛みを感じる程に強く手首を掴んでいる。
顔を上げて二人の顔を見ると、どちらも眉間にシワを寄せて私を睨んでいた。何故睨まれているか分からずにいると、胡桃ちゃんの携帯の画面に答えが出ていた。携帯の画面には私が調べたサイトの掲示板が映っており、ちょうど行こうとしていた五ヶ所目の話をしている書き込みがあった。
「霞、説明して。どうしてここに行かせようとしてるの?」
「どうしてって、桜を見る為に決まってるでしょ?」
「二人共、どうしたの……? 凄く、怖い顔だけど……」
「こいつ、アタシらを心霊スポットに行かせようとしてるんだよ」
「心霊……!? な、なんでそんな所に……!?」
「霞。流石にここへは行けないよ。ここに書かれてる事が嘘だとしても、確証が無い限り、嘘とも言い切れない。それに心霊スポットっていう場所の危険性は、何も幽霊だけじゃない。ここへ遊び半分で来る人間だっている。その中には、危険な人がいる事が多いのよ。そういう事は考えなかったの?」
「この前、心霊スポットで死体が放置されてたってニュースがあったよな。肝試しに来た四人組全員が首を切られて、首は地面の中に埋められ、残った体は木に逆さ吊りにされてたって話。森畑ではなかったが、結構近場だったぞ」
「私も見た……。ねぇ、霞ちゃん……やめようよ……帰ろうよ……!」
三人の視線が私に集中する。確かに心霊スポットの事は喋ってなかったけど、聞かれなかったから仕方ない。それに最後までちゃんと見ていないのだろう。そこには夜にだけ現れる桜がある。この世のものとは思えない程の存在感で、見れば一瞬にして虜になってしまう美しさだとか。
私はそれを見たい。胡桃ちゃんが言ったように、この掲示板に書かれている事が嘘の可能性もある。でも、その桜について書かれていた文だけは、私には本当の事のように思える。最初にその文を目にした時、文にある口が私に囁いてきたんだ。
【ここで、アナタに見つけられるのを待っている】
その声には聞き憶えがあった。記憶の中にあるものとは一致しないが、記憶の中にある誰かの声だ。おそらく、年齢が変わっているのだろう。だから声の主は疎遠になった友人の誰か。その誰かが誰なのか、どうして私に桜を見せようとしているのかを確かめたい。
「……お願い、時雨ちゃん。この場所まで連れて行ってよ。そこまで運んでくれれば、後は私だけでいいから」
「尚更駄目だ! お前を一人にさせるわけにはいかない!」
「でも、呼んでるんだよ? 誰かが私をそこへ呼んでるの。私は、会いに行かなきゃいけないの」
「誰かが呼んでる? どんな声で?」
「私を……求めてるような声。でも、誰かは分からないの」
「……ねぇ、もしかして」
「ええ、そうね。多分、彼女よ」
「ああ。アイツならありえるな」
「え? 三人は誰か分かるの? 声を聞いてないのに?」
三人は黙った。まるで、その名を口にするのを禁じられているかのように。
長い沈黙の中で、時雨ちゃんは煙草を一本吸った後、もう一本煙草を口に咥え、火を点けながら話し始めた。
「……間宮香奈を憶えてるか?」
その名前を聞いたのは久しぶりだ。間宮香奈。忘れるはずも無い名前だ。私達が小さい頃、よく一緒に遊んでくれた高校生のお姉さん。ちょうど私達が中学生になった頃、香奈さんは森畑から出ていった。理由は分からないし、聞いても教えてくれなかった。
そうか。あの声の主は、香奈さんだったのか。そよ風のように優しく、子守唄のように安心する声をしていた。私が聞いた声と一致している。
「香奈お姉ちゃんの事は憶えてるよ。でも、なんで香奈お姉ちゃんの話を?」
「それは……」
「色々あってな……」
「だから、それが知りたいんだけど」
「……香奈お姉さん……もう何年も音信不通なんだよ……」
「携帯番号が変わったとかじゃないの?」
「アタシらが中学に上がった頃、香奈さんいなくなったろ? 仕事で外に出たとか、大学に通う為とか、色々大人達が言ってたけどさ。あれ、全部嘘だ。本当は……家出したんだよ」
「荷物も何も持たずにね。香奈さんの家は、その……問題があったの」
車内の空気が重苦しい。三人は何処か遠くを見ているけれど、私だけが平然としている。まるで、香奈お姉ちゃんの事を聞いた時に見た大人達のようだ。
「……車を走らせながら話すよ。香奈さんがどうして家出したのか。なんでお前が香奈さんに呼ばれているかを」
そう言って、時雨ちゃんは吸っていた煙草を灰皿に捨て、車を走らせた。




