少女の叫びと我が牙の誇り………
前話にて「主人公の名前が一話と違う」との御指摘がありましたので、訂正させていただきました。
誠に申し訳ございません。
皆様からの御指摘、御感想は作者にとって、良き励みになりますので今後ともよろしくお願いいたします。
「こちらが宿舎の部屋の鍵となります」
「あ、ありがとうございます」
鍵を受け取り、お姉さんに案内されて宿舎へと向かう。
宿舎の部屋は、簡素な物。
テーブルとイスが一組、ベッドが一つ。
「ま、こんなモンだろ」
冒険者ギルドの宿舎だ。多くを望む方が無理ってモンだ。
「ねぇ、ツキヤ?」
「ん?」
「ベッド…一つしかないよ?」
「そうだな」
「これって、もしかして一緒に…」
「安心しろ。俺は床で寝るから」
「え!?でも、それは悪いよ」
「気にすんな」
女の子を床で寝かせて、自分だけベッドで寝る…なんて、バカな事はしません!!
「さ、時間も時間だし…晩飯食いにいくか」
「は〜い」
さて、飯も風呂も済ませたし…後は寝るだけだな。
「そろそろ寝るぞ」
「分かった〜♪」
俺は部屋に設置されているランプの灯りを消す。
すると、一気に静寂が訪れる…。
そう、此処は異世界…。俺が元居た世界とは違い、電気なんて物はなく、街は昼の賑わいはナリを潜め、闇が支配する世界。
なかなか眠れねぇなぁ…
床に転がり、そんな事を思う。
今日は一日、色々な事があった…。
学校から帰宅後、神との遭遇。
その神に異世界へと飛ばされる。
エルフのディエナと遭遇。
街でギルドへ登録。
ありゃ…細かい事を挙げてきゃ、キリがねぇな…。
「……………ツキヤ、寝ちゃった?」
小さな声でディエナが俺に声を掛けてくる。
「いや、まだだけど…どうかしたか?」
「うん……ちょっと、眠れなくて……」
「そっか…」
「………ねぇ、そっちに行っても…………良い……かな?」
「…………?」
俺はディエナの言葉で身体を起こす。
ディエナはベッドの上に座って俯いたままモジモジとしているが…
「ハァ…」
俺は溜め息を吐いて立ち上がり、ディエナが居るベッドに腰掛ける。
そして、ディエナの顔を覗き込みながら
「どした?」
「ん…。こうやって、誰かと一緒に同じ部屋で過ごすのって始めてで…勿論、一緒に同じ部屋で寝るのも……」
そっか…。ディエナは銀髪のエルフ……忌み子として最近まで幽閉されてたんだった…
それで、あんなにはしゃいでたのか…
部屋で二人きりになってからの、ディエナのはしゃぎ様は凄かった。
「で、ディエナさんは興奮して眠れない…と?」
「む…。ちょっとツキヤとお話ししたいかなぁって……」
「はいはい。こんな私めで宜しいなら、幾らでも…」
俺は笑顔でディエナの頭を撫でる。
「あのね…私の国の……て言うか、エルフの風習は話したよね?私みたいな銀髪のエルフは忌み子として、隔離・幽閉されるって。最悪、処刑…なんて場合もあったんだ。私は最初、嫌だって思ってた。周りの皆と遊びたかった。でも、時間が経つにつれて、それでも良いかなぁ…なんて考えに変わりだしたの」
笑顔で語るディエナ。
そんな笑顔とは裏腹に、話の内容は暗く…重い。
この年齢で、そんな心境になるには、どれほどの孤独と絶望だったのだろう…。
「でもね、やっぱり私は生きていたい…もっと楽しい事したいって思って。で、精霊さん達の力を借りて幽閉場所から抜け出したんだけど…。まさか、私に懸賞金が掛けられるなんて、思ってもみなかった」
「つー事は、俺が初めてディエナと会った時に居た男達は…」
「そう。私の懸賞金目当ての人達。危うく連れて行かれそうだったけど、ツキヤに助けてもらっちゃった…」
コテン…と額を俺の胸に付けるディエナ。
良く見ると、その小さな肩は…………震えていた。
「ディエナ……………」
「ねぇ、ツキヤ?私、悪い子なのかな?…………自分の国で、一生幽閉されてた方が良かったのかな?」
ディエナの声が震え出す。
「私は、生きたいって思っちゃダメなのかな………?自由になりたいって思っちゃダメなのかな………?」
俺はディエナを抱いて背中を軽く叩いてやる。
「そんな事はない…そんな事はないんだよ…………」
「ウッ……。グス………。これ以上………ヒッ……ツキ………ヤ……と、一緒……に居たら…………迷惑………に……なる………」
「ディエナ」
嗚咽混じりに言葉を紡ぐディエナに俺は声を掛ける。
一瞬、ビクッと身体を硬くするディエナ。
「ディエナはこれからどうしたい?俺は建前とかじゃなく、ディエナの本当の気持ちが知りたいんだ」
「わ…………私………の?」
「あぁ。ディエナの本当の気持ち」
「私は…………」
瞳からポロポロと涙を流しながら、ディエナは顔を上げて俺を見つめる。
「私は…生きたい……。もっと自由に、楽しい事を…色々な事をたくさんしたい!!私は……ツキヤと一緒に居たい!!居たいよぉ……………」
その言葉を聞いて、俺はスッと立ち上がり、床に片膝を付けディエナを見つめる。
その時、窓から射し込む月明かりが俺とディエナを照らし出す。
「我、貴公の魂の叫びを聞き届けたり。いつ如何なる時も、我はこの魂に宿る牙と誇りに賭け、貴公を護る最強の盾となり、貴公の敵を葬る牙と成らん事を此処に誓おう………我が名はツキヤ」
「…………え?」
いや〜。一回、やってみたかったんだよねぇ。
某傭兵王国の最強修練闘士みたいな誓いってヤツ。
ま、実際ディエナには誓いをたてても良いと思ったから……なんだけどね。
さすがにディエナも、キョトンとしてるし…。
これからは、ディエナは俺が護っていくんだ。どんな事があっても、俺はディエナの味方だって約束もしたしね。
「ツキヤ………今のは?」
「ん?まぁ…なんつ〜か、俺がディエナに対しての心構えみたいなモンだよ。とある国の大切な人を自分の力で護り抜くって意味の誓いだ」
「!?……そ…んな誓い……私が受けても良いの?」
恐る恐る聞いてくるディエナ。
ディエナの頭をポンポンと叩いて
「ディエナだから…だよ。ディエナだから、俺も誓いをたてたんだ……………受けて……くれるか?」
ディエナは、またポロポロと涙を流しながら、何度も頷いてくれた。
まったく、この子は泣き虫だねぇ…。
「さて、ディエナ。安心出来たかな?」
笑顔で聞くと、ディエナは俺の服の袖を掴んで、
「………今日………………だけで良いから………………………一緒に………寝て?」
涙目で上目遣い…さらに首をコテンと傾げながら聞いてくるディエナ。
ぐはぁっ!!
コレは正しく最強コンボ!!!
と言うか、リーサルウェポンじゃねぇか!!
コレで拒否ったら、最低だな…。
「仕方がねぇなぁ…」
俺は苦笑しながらディエナの隣に寝転がる。
「フフッ♪ツキヤ……あったかいね♪」
笑顔で抱き着いてくるディエナ。
「良いから、早く寝ろ」
「は〜い♪オヤスミ、ツキヤ。……………………大好きだよ」
ったく………。最後の呟きは、聞かなかった事にしておこう。
その日の夜、俺がなかなか寝付けなかったのは、言うまでもない。
べ!!別にロリコンとかじゃ無いんだからね!!!