第70話「あっ、島田君あの子の胸気になるの?」
―3人称視点―
栄太郎が貞操観念が逆転した世界にきて、そろそろ半年。
この世界の事は理解していたつもりだった彼が、この日、まだまだこの世界の常識に理解が及んでいない事を、改めて分からされる。
それはいつものように西原と登校し、教室で西原や大倉さんと談笑している時の事だった。
栄太郎の目に映ったのは、女子の胸を揉んで「マジでけぇ」とはしゃいでいる男子たち。
この世界では女子が男子の胸を触るのはご法度だが、男子が女子の胸を触る分にはなんら問題がない。
その証拠に、あれほど校則にうるさい小鳥遊が止めるでもなく、一瞥しただけでまた参考書に目を落としている。
まるで陽キャのようなノリで女子の胸を触る男子に、満更でもない様子で胸を触らせる女子。
出来ればその集団に混じりたい栄太郎であるが、そんなところに「俺も揉ませて」と言えるほどのコミュ力と胆力は当然持ち合わせていない。
(ここで、彼らをネタにして、京や大倉さんに胸を揉ませてと言えば揉めるのでは?)
言えば揉めるだろう。だが、それを口に出す勇気がない辺り相変わらずのヘタレである。
いや、彼が言い出せないのはそれだけが理由ではない。
今男子たちから胸を揉まれている女子は確かに大きい。だが栄太郎のスカウターによる数値では、大倉さんの方が大きいのだ。
ここでもし胸の話題を出して、大倉さんの方が大きいなんて言えばどうなるか?
答えは簡単だ、興味を持った他の男子が大倉さんの胸を揉みに来るだろう。
特別な恋愛感情こそないものの、大倉さんとはそれなりの仲である。
彼女の胸を、男子生徒たちが興味津々で揉み、揉まれた大倉さんも満更ではない表情を見せる。
想像しただけで胸が張り裂けそうになる栄太郎。この気持ち。人、それをNTRと言う!
大倉さんだけならまだ良いが、そこで乳比べが始まれば西原もその餌食になりかねない。
もしそんな事態に陥れば、彼の脳はいともたやすく破壊され、新たな性癖を獲得してしまうだろう。
なので、出来る限り見ないようにして話題を振らないようにして見るのだが。
「あっ、島田君あの子の胸気になるの?」
こんな時に限って、めざとくなる大倉さん。
まぁ、実際はこんな時ではなく、純粋に栄太郎にアプローチできるタイミングを図っていただけだが。
胸の大きさなら自信がある彼女としては、自分に有利なフィールドでアプローチ出来るチャンス。
なので、栄太郎があいまいな相槌を打ったところで、話題を変えさせまいと必死に引っ張る。
栄太郎としては、おっぱい三原則「見たい」「揉みたい」「吸いつきたい」に則り、大倉さんの振った話題に食いつきたいところではあるが、それはNTRに繋がる罠。
だったら「NO」と突きつければこの話は終わらせることが出来る。だが、それをすれば今後おっぱいチャンスが激減してしまうのは自明の理。
中途半端な事を言えば、NTRルートに直行してしまう。どうすれば良いか一瞬のうちに悩みぬいた栄太郎の結論。それは。
「ダメだって、あんな風に大倉さんの胸触ったら、教室で勃起しちゃうかもしれないじゃん?笑」
軽い下ネタで笑って誤魔化す作戦である。
だが、それは何も軽くなかった。なんなら特大級の地雷である。
栄太郎の言葉に、刹那、教室の誰もが言葉を失った。
(もしかして俺、何かやっちゃいました?)
時が止まったかのように静まり返る教室で、居心地の悪さから思わず後頭部を掻く栄太郎。
そんなにヤバかったのかと思い、小鳥遊に目を向けると、小鳥遊は顔を真っ青にしながら口をパクパクと動かしている。
(えっ、ってか島田君ってビッチみたいな格好してるけど今まで下ネタ言った事一回もなかったよね)
(ガチビッチの下ネタ、リアル過ぎてやべぇ)
「え、栄太郎?」
「あ、はい」
「栄太郎?」
「あ、はい」
顔を真っ赤にしながら頬をピク付かせる西原だが、言葉が続けられず、栄太郎の名前を連呼する。
幼馴染の狼狽えっぷりを見て、ようやく事の大きさに気づく栄太郎。
「あはは~。な、なんちゃって」
冗談でしたと口にして「そっか、冗談だったかワッハッハ」などと流されるわけもなく、その後西原から割とガチ目の説教を受け、小鳥遊からは予鈴のチャイムが鳴るまでガチな説教を受け、顔を赤らめて人差し指同士をチョンチョンさせた大倉さんから上目遣いをされた栄太郎。
心の中で「いやいや、冗談ですやん」と思いつつ、その日、学校が終わり帰宅した栄太郎が自分の発言がどれくらいヤバかったかAIに質問してみると、この世界における男性の勃起は、処女の妄想であるファンタジー説が出るほどに稀有な現象だと出て来て目を引ん剝く。
何故そんなトンデモ話になっているんだと頭を抱える栄太郎だが、冷静に考えて理解する。
貞操観念が逆転した世界において、女性の裸で一般男性は性的に興奮する事はない。なので勃起現象が起こりづらいのだろうと。
その後、下ネタ発言の事をヒソヒソと噂され、なんなら自分のクラスにまでその話が広がり、しばらくの間、彼は噂される事になる。
だが、反省はしつつも栄太郎の顔に後悔はない。NTRを防げたのだから。NTRダメ。絶対。




