第69話「そうか。島田君もついに分かってくれたのか」
衣替えの時期がやってきた。
いや、本当はとっくに衣替えが終わってるんだけど、それでもと必死に薄着をしていたんだが。
とはいえ、流石に限界だったので今日から冬服を着る事にした。
「おはよう、冬服にしたんだ」
「あぁ、寒くなってきたしな」
「そっか」
朝、迎えに来た京が俺の格好を見て、普段通りに見えて、どこか奥歯に物が挟まったような言い方をしている。
まぁ露出が激しい奴が、真面目に冬服着てるんだから違和感があるのは仕方ないよな。他の露出が多めの男子はズボンをカットして短パンとかにしているけど、俺は普通の長ズボンだから。
なんで短パンにしないのかって? 寒いしダサイじゃん。
「ちゃんと冬服着てるんだ」
「意外か?」
「うん。どうせ制服を短パンとかにするんだろうなと思ってたし」
まぁそれはそうだな。
漫画とかで露出多めなギャルって、冬服になっても大抵はミニスカートだし、前の世界でも冬でもミニスカートな女子はいっぱい居た。
冬だからってロングスカートにしてるのは少数派。だから珍しがられてもおかしくはない。
ただ、妙に視線が変なんだよな。
ズボン、というよりも、足元に目がいってるし。
オシャレは足元からって言うし、ファッションチェックでもされているのだろうか?
「これはこれで、有りね」
「ん? 何か言ったか?」
「別に……」
俺は難聴キャラじゃないから確実に聞こえていたけどな。
何が有りなんだ? もしかして、この格好この世界基準ではスケベだったりするのか?
そんな疑問は、京の教室についてから余計に増すばかりだった。
「あっ、おはよう……」
と、いつものように挨拶をしてくる大倉さん。
彼女もまた、俺の足元を見てくる。
「あっ……フヒッ!」
そして気持ち悪い笑みを浮かべているのだから、やはり俺の格好に何かあるのだろう。
とはいえ、「今日の俺の格好、スケベじゃない?」とか自分で言う勇気は勿論無い。
しょうがない、ファクトチェック@小鳥遊君。
「おや」
大倉さんの気持ちの悪いフヒ声に反応した小鳥遊君が俺を見て、メガネをクイっと上げている。
そして無遠慮に近づき、ジロジロと俺の足元を見ると、満面の笑みを浮かべた。
「そうか。島田君もついに分かってくれたのか」
そして何が嬉しいのか、うんうんと頷くと親指を立てて去っていく。
よくわからんが、小鳥遊君のドスケベチェックは問題なく素通りできたようだ。
だというのに、女子たちは「ほう」と顎に手をやり「それはそれで」と小言で呟いている。
スケベじゃないのに何を喜んでいるんだ?
それは自分の教室についても同じような感じだった。
ただ制服を普通に着ているだけなのに……あっ!
気づく、そう、俺は制服をちゃんと着ているのだ。
露出多めなギャルが、ある日真面目な格好をして来たらどう思うだろうか?
ギャップ萌えするだろう。俺個人としては、真面目な委員長キャラがギャルに変身する方が好きだから、その考え方は相容れないのだが。
貞操観念が逆転した世界から来た俺にとって、肌を晒す羞恥心というものはない。
だからこそ、他の男子よりも一歩も二歩も先を行く色仕掛けが出来た。
そんなドスケベ代表みたいなやつが、まさかの堅物真面目キャラみたいな格好になっているんだから、一部の性癖を貫いてしまったに違いない。
まさか、ただ普通の格好をするだけでもスケベになるとは思わなかった。
しかも、理由はそれだけじゃない事に気づく。
「ねぇねぇ見てよ、山田の絶対領域ヤバくない?」
「うわっ、狙いまくってるじゃん!」
絶対領域。
前の世界ではスカートとニーソックスの間に見える素肌を表していたが、この世界ではちょっと違う。
男子の長ズボンとソックスの間に見える素肌とくるぶしを表すそうだ。曰く、素肌とくるぶしがまるで男性器のようだとか。見えないからって見える部分に無理やりエロスを求めるのは流石にどうかと思う。
更に絶対領域からすね毛を出すと興奮度が上がるとか。その為にズボンのすそを短くするらしいけど、短くし過ぎるとありがたみが減るから隠す度合いと見せる度合いの黄金比があるのだとかなんとか。
んでもって俺は普通のソックスを履いている。当然裾もそのままで。鉄壁のガードってわけ。小鳥遊君が喜ぶわけだ。
じゃあ俺も明日から短い靴下にして、裾上げするかって?
バッカ、それは浅はかな考えだよ。
ドスケベ諸君なら、こんな時どうすれば良いか分かるだろ?
そう、正解はこの格好を貫く事だ!
「冬服にしたけど、今日はちょっと暑いな」
少し大きめの独り言を言いながら、上着のブレザーを脱ぐ。
おーおー、予想通り。女子たちが色目で俺を見てるわ。
そうだよな。鉄壁なまでに隠された状態だと、たった1枚脱いだだけでも破壊力は上がるからな。
冬服の方針は決まった。超堅物生真面目な制服で、時折見せるチラリズム。
今まで当たり前のように見れてた物が全く見えなくなる事で、そのありがたみを上げていくって戦法よ。




