第65話「えへへ、ちゃんと出来たよ。島田君撫でて!」
頭を撫でられた事で勉強にやる気を出す栄太郎。
否。やる気が出たのではない。
「こ、これで当ってるかな?」
「全問正解。良い子ね」
ご褒美のなでなでの味を占めただけである。
真面目に勉強をする→西原に撫でられる→やる気が出る→まじめに勉強をする。
見事なスパイラルの完成である。
本当は、某動物王国のおじいちゃんのように撫でまわしたい気持ちを抑えながら、出来る限りクールに頭を軽く撫でる西原。
男の子はドSクールキャラからのなでなでが効果的と信じているので。
(モテル女特集、正直胡散臭いと思ってたけど、本当に効果ある時あるんだ!)
別にドSクールキャラだから栄太郎は胸をキュンキュンさせているのではない。
相手が西原だからキュンキュンさせているのだ。そもそもドSクールキャラになりきれていないというのもあるが。
この2点に気づけば、恋は一気に進展するというのに、大事なところでポンコツである。
(うふふ、栄太郎のヤツ、その内『頭以外も撫でて欲しいな』とか言いながら、ワン子のポーズとかし始めて……)
更にいつもの妄想まで始め、ポンコツここに極まりである。
とはいえ、栄太郎の好感度が上がっていってるのは確か。
が、そんな状況を良く思わない者が一人。
(もしかして、島田君と西原さん2人で居る時ってこんな感じなの?)
嫉妬に狂いそうな目で栄太郎と西原を見る大倉さん。
(こんなの、距離感がバグってるギャル男とオタクちゃんのシチェーションじゃん!)
西原を自分に重ね、ちょっとだけ興奮しているのはご愛嬌だが。
うらやまけしからんシチェーションに、自分も混ざりたくはあるが、栄太郎の頭は西原が絶賛キープ中。
彼女に続き、自分も栄太郎の頭を撫でたい大倉さんではあるが、一つ問題が。
もしここで自分も手を伸ばし、拒否されたら。
何度も脳内では栄太郎の頭を撫でているが、体は思ったように動いてくれない。
自分も栄太郎の頭を撫でたい、撫でてみたい。男の子の頭を撫でる感覚が知りたい。
ぐぬぬと歯ぎしりをしそうなくらい、俯き顔を歪める大倉さん。
が、そこで彼女は気づく。撫でるのがダメなら、撫でられれば良いじゃないか、と。
「あっ、西原さん。私も出来ました!」
「えっ……あぁ、うん。ちゃんと出来てる」
急にやる気を見せた大倉さんにより、妄想の世界から現実に引き戻された西原。
ノートを確認すると、ちゃんと真面目にやってる事に感心しながら、大倉さんにも笑顔を見せる。
しかし、次の瞬間にはその笑顔が般若に変わっていた。
「えへへ、ちゃんと出来たよ。島田君撫でて!」
栄太郎に対し、なでなでを要求し始めたので。
少し戸惑いつつも、栄太郎は大倉さんの頭を撫で始める。
大倉さんが異性である栄太郎の頭を撫でたいと思うのと同じように、貞操観念が逆転した世界から来た栄太郎もまた、異性の頭を撫でてみたい。
以前は四谷にプロレス技をかけられた大倉さんを、よくわからない流れで頭を撫でていたので、こうして面と向かって言われ、ちゃんと撫でるのは初めて。
撫でるのも良いし、撫でられるのも良い!
彼は今!
ナデポフルコースを堪能していた!
立場が入れ替わり、今度は悔しさで今にもハンカチをかみちぎりそうな表情を見せる西原。
そんな表情を見せたのも一瞬で、とあることに気づく。
(じゃあ、私も教えたご褒美で撫でて貰えば良いじゃん!)
お前は頭を撫でて貰ったけど、私は頭を撫でて貰った上に頭を撫でた事があるが?
栄太郎に頭を撫でて貰いスケベな事をする妄想と、大倉さんへの脳内マウントを30秒で済ませ、口を開こうとした西原が止まる。
(ドSクールキャラは、頭を撫でてって言わなくない?)
そう、いま彼女はドSクールキャラになりきっていると思っている。
ドSクールキャラになりきっているおかげで栄太郎を骨抜きに出来たと勘違い中。
ここでキャラが崩壊してしまえば、せっかく稼いだ好感度が全て水の泡になってしまいかねない。
今日は栄太郎の頭を撫でられただけでも収穫があったと自分に言い聞かせ、西原はキャラを演じる。
撫でたい、撫でられたい。それぞれの欲望が渦巻く西原邸。
勉強会の甲斐あって、それぞれの成績は上昇した。




