第56話「クソゲー研究部は何やるか決まってるんですか?」
文化祭が近づく中、慌ただしくなるのは何もクラス展示だけではない。
「クソゲー研究部は何やるか決まってるんですか?」
そう。各部活動も文化祭は展示があるのだ。
運動部に関しては、やってもやらなくてもOKだが、文化部は文化祭で展示がなければ即廃部という重い枷がかけられている。
といっても、あまりに公共良俗に反していなければ、展示は大体何でもOKである。
なので、適当な展示をする部活動も少なくはない。
だが、適当な展示をすれば、学校側からのウケは当然良くない。
学校側のウケが悪ければ、部費は減らされる。
他の同好会が部室を求め、部に昇格したいと言い出した場合、部の存続のための人数がギリギリなクソゲー研究部は追い出されクソゲー研究会に格下げの可能性もある。
更に言えば、教師相手に暴れた事がある四谷が在籍しているのだから、印象は最悪に近い。
故に、クソゲー研究部は学校ウケの良い展示が求められていた。
学校ウケの良い展示が求められているというのに、いまだに何をするのか決まっていないクソゲー研究部。
言い訳のしようがないほど、毎日だらだら遊んで過ごしていただけだったので。
全員が腕を組み「うんうん」声を上げながら悩んでいる。
悩んでも仕方がないから、息抜きでゲームをしよう。
そんな軽い発言が毎日続き、気づけば今日は部で何を展示するか文化祭実行委員に届け出を出す提出日。
「四谷の筋肉を使って、マッスルバー(お酒無し)ってのはどうよ?」
「あっ、良いですね。四谷先輩片手でリンゴ潰せるから、マッスルアップルジュースとか言って目の前でリンゴ潰してリンゴジュースにして出すとか!」
「いやぁ、それやったら保健所沙汰で下手したら即廃部になると思うよ」
学生レスラーとして鍛え上げた四谷の身体を何とか使えないか画策してみるも、食べ物は衛生上の問題で全てNGになる。
かといって、ただ鍛えた身体を見せるだけなら、似たような事を運動部がやっている。
「それじゃあ、有名なクソゲーの紹介なんてどうです?」
「島田ぁ、他人様が心血注いだ作品を公の場でバカにする行為だぞそれ」
「反感買うどころじゃないって。SNSとかで広められて炎上したら、部活がどうこうってレベルじゃすまないから」
「そ、そうですか。すみません」
などと謝ってみる島田だが、内心では「そもそもクソゲー研究部って名前の時点でアウトじゃないですかそれ!?」と叫びたい気持ちで一杯である。
口には出さないが、大倉さんも同じ気持ちである。
「そ、それじゃあ、有名なクソゲーを、実はこんな面白い作品なんですよって説明するのはどうですか?」
「クソゲーが面白いわけないだろ……」
「面白かったらクソゲーって言わないよ……」
全くその通りである。
余計に重苦しい空気にしてしまい、少しだけ罪悪感を感じる栄太郎。
少しでも場の空気を軽くしようと、あえて違う話題を振ってみる。
先輩や大倉さんのクラスの展示は何をするんですか、と。
しかし、急に話題を振っても困るだろう。なので、自分のクラスの展示を茶化しながら笑って言う。
「俺のクラスは執事喫茶をやるとか言い出して、燕尾服は普通なのに、カッターシャツは布面積少ないし、ズボンは短パンだしで恥ずかしい格好なんですよ」
はははと軽く笑いながら、自分のクラスの展示を茶化す栄太郎。
だが、空気は彼が思うように軽くはならない。
(島田パパの、ドスケベ執事姿だと!?)
(島田お兄ちゃんの短パン姿。見たい!!)
(島田君、またエッチな格好しようとしてる!)
もはや廃部がどうとかそんなのはどうでも良くなった3人。
栄太郎の執事姿が拝みたい。それだけである。
(島田君のエッチな格好……そうだ!)
「あっ、良い事思いついたから、ちょっと待ってて」
そう言って席を立つ大倉さん。
栄太郎、四谷、浜口が、部室を後にする大倉さんを見送る。
あまり良い予感はしないが、それでも何か提案があるのならと。
大倉さんが部室を出ていって数十分が経っていた。
四谷と浜口から、執事喫茶で何をやるのか、栄太郎が根掘り葉掘り聞かれている時だった。
「えー助がお困りと聞いて、飛んでまいりました!!」
「ったく、助けが要るなら頼りなさい」
「応援団に入ってくれた恩を今こそ返したいと思いマース!!」
「「「「ウェーイ!!!!」」」」
部室のドアが勢いよく開かれたと思えば、チャラい声でチャラい喋り方をする、いつかの応援団をやった4人組が顔を出した。
その後ろでは、人見知りのように目線を下に落とす大倉さん。
話にも陽キャのノリにもついて行けず、完全に固まる栄太郎、四谷、浜口。
「まぁなんつうの? 部の展示? って奴で困ってた系?」
「それなら俺たちが、パパっと解決しておいたので、ご安心を」
「「「「ウェーイ!!!!」」」」
あっけに取られている栄太郎たちを無視し、勝手に盛り上がる4人組。
何を言っているのか分からないが、部の展示を手伝ってくれる。それだけは分かる。
なので、少し引き気味の笑顔でお礼を言う栄太郎に、4人組がいつものように馴れ馴れしく肩を組みながらハイテンションに騒ぎ始める。
「というわけで、クソゲー研究部の出し物は、俺たち5人の応援団で決定しました」
「はっ!?」
「「「「ウェーイ!!!!」」」」
「俺たちと、クソゲー研究部が共同でオリジナル応援を考え。その結果陸上部がインターハイで好成績を残せた。なので文化祭でその時のオリジナル応援を皆の前で披露しちゃいます」
「はっ!?」
「「「「ウェーイ!!!!」」」」
どういう事だよと大倉さんを見る栄太郎だが、大倉さんは首を横に振って私じゃないアピールを見せる。
実際に、大倉さんはこんな事をさせようとしたわけではなかった。
ただ、京を応援する時に栄太郎たちが着ていた応援団衣装が手作りだったので、手作り衣装を展示したいとお願いしただけ。
展示ついでに、陸上部の輝かしい成績を載せれば学校側も納得する。そんな計画だった。
だが、上級生の男子に直接頼む勇気がない大倉さん。
なので京を経由し、四人組の中に幼馴染が居る陸上部の部長に話をしてお願いした結果、衣装の展示ではなく、オリジナル応援を披露するという話にねじれたのだ。
どこをどうすれば、衣装の展示がクソゲー研究部と共同で考えたオリジナル応援を披露になるのか疑問に思うだろう。
「あの時の応援、もう一回見たいな」
応援団をきっかけに幼馴染と付き合う事になった陸上部の部長が、そんな惚気たお願いをしたからである。
そんな恥ずかしい格好をして、恥ずかしい応援をするくらいなら廃部で良いや。
そう思った栄太郎だが、話しを聞きつけた京に「見たい見たい」とゴネられ、仕方なく応援団再結成を了承する事となった。
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