第54話「この格好とか、流石にダメかな?」
夏休みが終わり、迎えた9月。
まだまだ暑い日々が続く中、栄太郎は放課後の男子更衣室で頭を抱えていた。
「この世界、やっぱおかしいわ」
10月の文化祭、その出し物として、栄太郎のクラスは執事喫茶をやる事が決定していた。
別にそれは栄太郎としては構わなかった。貞操観念が逆転した世界。ようはメイド喫茶のようなものをやるのだろうと。
執事の格好をして「お帰りなさいませお嬢様」というのは、ちょっと面白そうだ、なんて気楽に考えていた。執事喫茶の衣装を渡されるまでは。
「本当にこれを着るのか?」
男子更衣室で渡された衣装を見て、栄太郎が物凄く嫌そうに呟く。
「仕方ないだろ。決まった物は」
栄太郎の独り言に、クラスの男子がしぶしぶといった様子で返す。しぶしぶな割には、顔からワクワクが隠しきれていないが。
口々に「女子ってホントこういうの好きだよな」と言いつつも、どこか楽しそうに男子たちが着替えていく。
渡された衣装は、黒の燕尾服、しかし上はノースリーブカッターシャツ。下は短パンサイズである。
クールビズと言えなくもないその恰好に、栄太郎はただひたすら苦笑いを浮かべる。
いまだにぐずる栄太郎だが、他の男子たちは既に着替え始め、なんなら着替え終わった者も少なくはない。
「どうかな?」
「結構いけてるじゃん!」
恥ずかしそうに、燕尾服を開きノースリーブカッターから脇がチラ見せ出来るような格好をした男子に、歓声が上がる。
女子たちがこの格好を見たら、絶対えっちな目で見てくるなどと笑いながら。
「この格好とか、流石にダメかな?」
中には、燕尾服の下には、ニップレスにサスペンダー、素肌に蝶ネクタイがヘンタイっぽさを漂わせる格好をする者までいる始末だ。
元の世界で言う、ビキニメイドみたいな物だろう。
ツッコミを入れたい栄太郎だが、ここでツッコミを入れようものなら「お前も着たいんだな!」と言われかねない。
なので、嫌だが、心の底から嫌だが着替えた栄太郎。
(はぁ、文化祭はサボろうかな)
そんな栄太郎の考えも、教室に着くとさっさと変わるのである。
「女将、やってる?」
メイド服を着た女生徒。
そのメイド服を着た女生徒のスカートの中から、しゃがんだ姿勢で女生徒2人が出てくる。
どうやらスカートを居酒屋の暖簾に見立てたギャグなのだろう。
そのギャグは栄太郎も見覚えがあった。最近人気のお笑い芸人がやっている持ちネタである。
それを見て、男子も女子も指をさしてゲラゲラ笑う。
相当流行っているのか、誰がやっても大爆笑が巻き起こる。
ただ同じネタをやるのでなく、別のバリエーションを考えたりと、事あるごとにメイド服のスカートが捲られる。
捲られたスカートからチラリと見える、同級生のパンツ。
(クラスメイトの女子のパンツが堂々と見放題だと!?)
栄太郎、ガン見である。
貞操観念が逆転していない栄太郎にとって、それはかけがえのないほどの眼福。
いくら見たとしても、変に思われない。
「ってか、島田君めっちゃ見てるし」
変には思われないが、面白がられはする。
「え、いや」
「さては、やってみたいとか?」
ニヤニヤと栄太郎を見ながら、女生徒がスカートの裾を上げる。
同級生の女子のスカートの中に、合法的に入り込むチャンス。
しかし、他の女子が「流石にそれはダメじゃね?」と恥ずかしそうに宥める。
女子のスカートの中に男子を入れるなんてスケベな行為、流石に男子が嫌がるだろうと。
「あー、でもちょっとやってみたいかも」
瞬間。栄太郎の言葉に、女子たちが無言になる。
男子たちは「面白そうじゃん」「流石にそれはダメじゃない」と軽い議論になっているが、女子たちはそんな男子の言葉が耳に入っていない。
誰のスカートに栄太郎が入るのか、入ってくれるのか。気になるのはそれだけである。
メイド服を着たクラスメイトのスカートの中に入れる。どの子のスカートが良いか獲物を探すような目で見る栄太郎。
ドスケベ執事の衣装を着た栄太郎がスカートの中に入ってくる。誰を選ぶのか獲物を狙うような目で見る女生徒たち。
後に栄太郎は語る。
貞操逆転世界はこんなにも美しいのだな、と。
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