第53話「とはいえ、大倉さんの言う事も一理あるわね」
何故西原がここに?
誰もが疑問に思うが、そんな事はどうでも良いと言わんばかりに、西原が力強く言う。
「私は、栄太郎が着た姿を、見たい!」
時が止まったように、場が静寂に包まれる。
口をポカーンと開け、どう反応すれば良いか分からない面々。
そして、西原はというと。
(は、恥ずかしいけど、これはえー君の為だし! 本当はえー君こういうの着てみたいはず!)
必死に羞恥心に耐え忍んでいた。
顔を赤らめつつも「私は気にしていませんが?」という顔をするのが余計に哀愁を漂わせている。
「ま、まぁ京が見たいって言うなら……」
何故西原がこんな事を言いだしたのか良く分からないが、本人が見たいと言うなら構わない栄太郎。
そもそも、西原に見せるのが目標だったわけなので。まさかの本人が登場して着たところを見たいと言い出すのは想定外だったが。
これにて解決。などと上手く行くわけもない。
「あっ、待った待った。その衣装はエッチすぎると思うんだけど!」
えっちなのはダメ、死刑。というわけではないが、その衣装では乳首とかが見えてしまう事を説明する大倉さん。
もしここに栄太郎が居なければ、四谷も浜口も西原の味方をし、なんなら実力行使で大倉さんを黙らせることが出来ただろう。
だが、栄太郎が居る。男子が居る前でスケベな話を堂々とできる女子は少ない。そして四谷も浜口も男子の前で堂々とスケベな話を出来るタイプではない。
ついでに言えば、西原もである。
流石にシモの話になってしまえば、西原たちの分が悪い。
完全に大倉さんの優勢で終わるかと思われた。
西原は聡明な女子である。聡明な彼女が、この程度の反論を想定していないわけがなかった。
にやりとほくそ笑みながら、西原が口を開く。
「っていうか、大倉さん『は』そういう目で見てたんだ」
ニヤニヤと、まるで小悪魔のような笑みを浮かべる西原。
西原が何を言いたいのか分からず、言い返そうにも大倉さんは言葉が思いつかない。
そんな西原の笑みを見て、栄太郎はちょっとだけ興奮している。普段は堅物で禁欲的な彼女から漂う妖艶な雰囲気に。
「栄太郎が最近はなんかはだけてる事が多いから、こういう格好してるの方が良いなと思ったのに。大倉さん『は』スケベな目で見てたんだ」
「あっ……違ッ!」
そう、別に自分はスケベな目で見ていませんアピールをする事により、自分はスケベじゃないと反論。
「そっかそっか、大倉さん『は』そういう目でしか見てなかったんだ」
更に、スケベの責任転嫁である。
スケベだと言うやつがスケベなんだと。まるで小学生の口喧嘩。
しかし、理論的な会話でないからこそ、反論は難しい。
バカと言った方がバカなんです~、に対し、理論的に反論する事自体がバカバカしいように。
「わ、私も西原と同じかな。この格好ってスケベなん?」
西原の意図を理解した浜口が、慌てて参戦する。
大倉さん『は』、つまり大倉さん以外はスケベな目で見たりしてないよねという意思疎通である。
更に四谷まで西原の味方をし始めれば、もはや言い逃れは出来ない。
もはや何を言っても、自分がスケベウーマン扱いされるだけなのを大倉さんは理解し、口をつぐむしかなかった。
「とはいえ、大倉さんの言う事も一理あるわね」
完全に意気消沈し「はい、私はドスケベウーマンです」と悲しそうにぼそぼそいう大倉さんを見て、流石に可哀そうになったのだろう。
「そういう目で見る人が居るかもしれないし、もしもがあったら大変だから、女手は多い方が良いんじゃないかな?」
「あっ……うん!」
大倉さんの発言に対し、確かにそういう目で見る人もいるかもしれないね。
落としどころとしては十分だろう。
自分のインターハイの応援に来てくれた友人なのだから、なんだかんだで無碍にする事は出来ない。
西原にとって栄太郎が一番大事なのは変わらないが、大倉さんの事もそれなりに大事なのだ。
だから、せめて友情にひびが入らない程度にケアをした。
(うん。やっぱり私が島田君を守護らねば!)
まぁ、そんな西原の想いとは裏腹に、即売会会場で栄太郎の騎士としてスケベな目で見られないように必死にブロックした大倉さん。
あまりにも見事すぎる働きにより、西原が栄太郎をスケベな目で見る機会が悉く潰され、「本当にこれで良かったのか?」と本気で考えたのは言うまでもない。
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