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気まぐれなリリカ

「……っ! このっ……!」


 カインは声にできないほどの腹立たしさを飲み込み、自分に宛てられた手紙をぐしゃりと握り潰す。


 おそらく義弟として最もリリムと接した時間が長かっただろう、フネラル公爵家令息からの情報。カインはそれにわずかな期待を寄せていたが、その内容も何度か耳にしたことがあるものばかりで大した進展は望めなかった。


「フネラル公爵はリリムの母親についてあまり語ろうとしなかったが、リリムの深緑色の髪や異様なほどの美しさは母親になかったらしい」


「リリムは使用人たちからも緑の髪を気味悪がられていて、義弟である自分と現フネラル公爵夫人が来てからはより一層、距離を取られるようになった」


 新しく判明した事実はその二つぐらいで、結局リリアやリリカとの繋がりについては謎のままだ。核心に近づけないまま曖昧な情報ばかりが積み重なり、焦燥感に駆られるカインは追い詰められていく。


「まだだ……まだ、何かわかることがあるはず……」


 もはや念じるようにそう呟きながら、カインはふらふらと王城の書庫へ向かう。


 カインにとって自分の知らないことや、わからない事象は常に「誰かが考えた方法で解決するもの」である。


 学ぶことを「ひたすら知識を詰め込むこと」と同義だと捉えているカインは、自分の前に理解不能な壁が立ち塞がればそれは自身の知識不足が原因だと考える。そこで何か調べるのはいいが、自ら壁を打ち破るにはどうすればいいかは考えないし自身の手元にあるものでどうにかしようとも思わない。カインは勉学に対しては真面目に取り組んでいるように見えるがその実、それ以外の努力の方法を知らないのだ。だから自分一人では何も生み出せないし、リリカのように自身の理解の範疇を超えた存在に対処できない。


 それでも、彼なりの「学ぶ」姿勢で何か調べていけばそれがリリカの正体を突き止めるはず。自分の現状を名もなき誰かがなんとかしてくれるはず、と信じた彼は先人たちの残した知識や経験に縋ろうとした。




 だが――




「……今はダンスの授業のはずでしょう。なぜ、あなたがここにいるのです」


 本来なら文官しか入れない、本や書類が立ち並ぶ中で無機質な空間の中にリリカがいた。呻くような声のカインに、リリカは歌うように答えてみせる。


「いえ、授業が早めに終わったので気まぐれに歩いていたら、いつの間にかこんなところに辿り着いてしまって……先生はなるべく私に詳しく、丁寧に授業をするよう心掛けてくださっているようなのですが」


 リリカの言葉にカインの中で、また不満が膨らむ。


 カインはリリカの調査を続けながら、特に機嫌が悪い時はダンス教師に八つ当たりすることもあった。そのほとんどが「もっとリリカへ厳しく接しろ」「なるべく授業の時間を引き延ばし、リリカを引き留めておけ」といったものばかりだったが、いずれにせよダンス教師には無理な話だった。リリカに対する恐怖心を隠しつつ、なんとか王妃教育の時と同じように授業をしていたがそれにも限度がある。しかしそういった事情を鑑みない、考えることもできないカインは「あのダンス教師が勝手に、カインの言ったことを口を滑らせた」と解釈した。


「それにしても、本当にたくさんの本がありますね。一体、この中にどれだけの知識や情報が詰まっているのか……考えただけでワクワクしてきますね」


「……、以前リリカさんは『文字が読めない』っとおっしゃっていましたよね? それなのに、なぜ読もうとするのですか?」


 何も考えていないカインだが、珍しくこの「リリカは文字が読めない」という情報に関しては疑いを持っている。リリムは公爵令嬢としての教育と王妃教育の両方を受けており学園でもトップクラスの成績を残していたからだ。




 そんなリリムと同一人物の可能性が高いリリカが、本当に文字を読めないのだろうか――?




 疑わし気な目を向けるカインの前でリリカは一冊一冊の本をゆっくり見渡すと、優雅な動きをそのままにくるりと一回転し――そこからリリカのダンスが始まった。


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― 新着の感想 ―
知識を詰め込むこと…………それは学びの一部だよな。 自身で経験し、試行錯誤していかなくちゃ、それで完結してしまう。 と言っても、今の思考錯乱中の彼には難しいのか。
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