塾の帰り道
私は、昔 口裂け女が出たと噂されていた地域に住んでいる中学1年生 楠木 凛だ。
口裂け女は、母が学生時代に塾帰りに見たと言い、今でも「口裂け女が出るから、早く帰って来なさい」と言われる。母が言うには、口裂け女は黒く長い髪、大きなマスク、赤いワンピースを着ていると言う。『ワタシ、キレイ?』と聞いて来る彼女に対して「キレイ」と言うと『これでも?』とマスクを外して裂けた口を見せられる。「キレイじゃない」と答えると殺される。学生時代に出会した母は、「ポマード×3」を繰り返しながら、走って逃げたらしい。
変わってココは、現代。最近、学生を狙って夕方から20時くらいに拉致や失踪の被害報告が有る。しかし、数日したら、朝方山で見つかるか、無事に歩いて帰宅している。しかも被害に遭って帰って来た学生が二分されていた。
1つのグループは、被害後、名前以外全ての記憶を抜き取られているらしい。もう1つのグループは、「口裂け女を忘れる訳が無い。」や「いのしし汁×3」と繰り返し言ったり、スマホのライトアップ機能を付けたり消したりしているのだ。
後者のグループは、みな「バス停「杉野口」の近くで黒いワンピースを着た長い黒髪の女性、大きなマスクを付けていた」話し、『ねぇ私の事、覚えてる?』と聞かれるらしい。彼らは、「覚えてます、口裂け女ですね」とか「いのしし汁×3」言いながら、口裂け女に向けてスマホのライトを付けたり消したりしたらしい。「ちょっと忘れちゃったかも...」か自信無さげにしていると、『コレなら、思い出す?』マスクを外して裂けた口を見せて来るらしい。そこで口裂け女と思い出し、答えられたら、記憶を抜き取られないらしい。
*いのしし汁は、いのししを生け捕りにして血抜きと湯引きをし、野菜や山菜と一緒に味付けされた汁物である。血抜きが上手く行っていないと臭く汁物として味付けされても不味くなる。血抜きが上手く行けば、少し臭みが消え美味しくなる
凛がここまで詳しいのは、小学時代から通っている塾には、密かにグループラインが作られ、同じ学校の先輩やら隣の学校の生徒もごちゃ混ぜで話したりしているからだ。
そのグループラインに小林陽菜からみんなに連絡が来た。[今日は、親が塾に迎えに来られないから、1人で帰らなきゃいけない。でも、口裂け女に遭うのが怖いから、誰か一緒に帰ろう?]と。口裂け女は、塾で帰りが遅くなっても1人や少人数で帰らなきゃいけない学生を狙っているらしい為、グループラインで声をかけている様子だ。
凛も今し方、親から[残業で塾迎え行け無さそう]とLINEが来た所だった為、[私も親が迎えに来られ無さそうだから、一緒に帰ろ!]と返事した。
塾の先生の熱弁が凄くて出たのが18時回っていた。陽菜と連れ立って、スマホのライトを2人とも付けて話ながら、歩いていると杉野口バス停近くに立っている女性が1人居る。バスの営業は、17時までだから、バス待ちでは無い事は明らかである。恐る恐る近づいてみると黒いワンピースを着た黒髪ロングのマスクを付けた女性だった。
足早に前に過ぎ去ろうとした時、「ねぇ、ちょっと?聞いて良いかしら?」と声をかけられる。「は、はい。何でしょうか?」と答えると、『私の事、覚えてる?2人とも...』と2人ともに聞いて来た。でも陽菜は、遭遇した事に驚き「あうあうapgkm...」と言葉になっていない。凛が2人の間に入り「私は、覚えてますよ。口裂け女でしょ?」と言うが、陽菜が答えられなかった為、『貴方には、申し訳ないけど、この子(陽菜)は、記憶を抜かなきゃいけないの』と言いながら、マスクを外した。陽菜は、「私は、陽菜」と言っているが足腰に力は、入らず凛の肩を借りている状態だ。
口裂け女は、『重たいだろうに、山に捨てて来ようか?』と言うのを無視して、肩を組みながら、近くの家を探した。探しながら、うろうろしていると。横を一台の車が止まった。凛の医大生のいとこである楠木珠里だ。「え?凛は、何してんの?その子、友達?」と車を降りながら聞いて来た。「帰り道で口裂け女に遭ってやられた。コッチは、記憶無いみたい」と答える。車内に2人がかりで陽菜を乗せて、応急処置やら怪我など無いか診て貰った。珠里は、医大や親に電話している様子だ。私も陽菜のスマホからご両親に連絡してみた。みんな医大に集合となった。
私は、今のところ何も異常なしだが、一応1週間後にまた再受診するように言われた。記憶を取られた陽菜は、精神科に入院している。1週間後、受診した際にまた陽菜の顔だけでも見に行こうと思う。