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特製マガロ丼

「あれ、私。何してるんだろ」


真っ暗な空間がずっと続いている。何もない。私以外何もない、誰もいない。


「あぁ、私死んじゃったのか。でも、ガーちゃんのこと守れたよね。きっと救えたよね」


私は震えながら言葉をゆっくりとこぼす。


「あれ、あれ? おかしいな。なんでこんなに涙がでてくるんだろ」


ボロボロと勝手にこぼれてくる涙に混乱してしまう。


やっぱり私には何もない。ここにだって私以外何もない。やっぱりどこにいても変われないんだ。


「……ちゃん!」


どこかから声が聞こえる気がする。


「なんの声だろ。幻聴かな。もう死んだのに」


「……ナちゃん!」


どんどん声が大きくなっていく。どこかで聞いたことある声がする。きっとこのまま目を閉じてしまえば楽になれるだろう。もう何もない私の人生は終わりなんだ。


「……ンナちゃん!」


私はつぶりかけていた目をハッと見開いた。


「私、まだ死にたくない。ガーちゃんが待ってる。戻らなきゃいけない」


「カンナちゃん!」


ドンドンとはっきり聞こえる声に私は答えるように叫ぶ。


「ガーちゃん!」


暗闇に一筋の光が差し込む。私はその光に向かってがむしゃらに走った。


この世界に来て、私は世界の色を知れた。大切な人ができた。まだ死ねない。私橘、いや、カンナは死ねない。


近づいていけば近づいていくほどドンドンと光は大きくなっていく。


「カンナちゃん!」


ドンドン大きくなるガーちゃんの声に勇気と元気をもらい、遂に私は光の中へと飛び込んだ。


「ガーちゃん……」


「カンナちゃん! よかった、本当によかった!」


ガーちゃんが泣きながら起き上がった私の上半身に抱き着いてくる。少し痛い気もするが私も泣きながら抱き返した。


「ここは、避難所?」


ホッと見渡す限り私が黒幕を見つけるために飛び出した避難所と酷似していた。


「そうです。街の人たちがガーちゃんの魔法を目撃して助けに来てくれたんです」


「嬢ちゃん、体の状態は大丈夫か?」


ガーちゃんの後ろから漁師服を着た白髪まじりのおじさんが心配そうな顔で私に話しかけてきた。


「まだ体は痛みますが大丈夫です」


「それはよかった。この国に初めて来たって言うのにここまで命はって助けてくれるなんて嬢ちゃんたちはこの国の英雄だよ!」


ホッとした顔で元気にそういうおじさんに少し元気をもらいながら痛みを感じる右手を見る。包帯でぐるぐる巻きにされた右手を見て、大けがだななんて思う。


「国を救ってくれたんだ。御馳走するよ。ほらっ!喰いな。特製マガロ丼だ!」


おじさんは私とガーちゃんに丼ぶりと箸を渡す。


この世界にも箸ってあったんだ。


私は疑問を感じながらも手渡された丼ぶりの中を見る。


うん、これ鉄火丼だね。見た目まんま鉄火丼だよこれ。


丼ぶりの中には米のようなものの上に赤く輝くマガロの刺身が乗っていた。


「カンナちゃんは手を怪我してますから私が食べさせてあげます。はい!あ~ん」


ガーちゃんは私に少し近づくと、器用に箸を使って私の口元へとマガロ丼を持ってくる。


「なんか恥ずかしいなぁ」


「遠慮なくどうぞ!」


私は顔を少し赤らませながらもマガロ丼を頬張った。


「う、うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


しっかりとした弾力に臭みのないマガロにあったかくほかほかのご飯と相性抜群!口の中がおさかな天国になってるよ!


私はそのままガーちゃんに食べさせてもらいながら、特製マガロ丼をかなりの速さで食べ終えてしまった。


「ぷはぁ、満足満足」


私はどこかおじさんみたいにお腹をぽんぽんと叩いてそう溢した。


「すごく美味しそうに食べてましたもんね。こっちまで幸せになっちゃいました」


ニコニコと太陽みたいな笑顔で話すガーちゃんを見ているとこちらまで笑顔がこぼれてしまう。


「あ、そうだ。カンナちゃんに聞きたかったんだけど」


思い出したみたいな顔をしてガーちゃんがそう言った。


何だろ、もう旅は終わりとか一緒にいられないとかじゃないよね?


私は少し不安になりながらも「何?」と尋ねる。


「倒れてる間に私には何もないと言っていましたがあれはどういう意味ですか?」


私はその言葉に顔を俯かせることしかできなかった。

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