ビターなライバル
「というわけで、調理は私が全て担当するから残りの作業は全部カンナにやってもらいたい」
「プリンちゃんが納得するものを作ってほしいから私はそれでいいよ。それで作るものはプリンでいいの?」
私からの問いかけにプリンは自信あり気な顔でニヤリと笑うと、私の前に一枚の紙を出した。
そこにはプリンアラモードという文字と共に、そのレシピが事細かく記載されていた。
「プリンアラモード、良いと思う!」
「ただのプリンアラモードじゃない。私にしか作れない。今存在するどんなプリンアラモードよりも美味しいプリンアラモードだ。私が試行錯誤を重ねて生み出したものだ」
「流石プリンちゃん! プリンに対する熱量がすごい!」
相変わらずのぷりん熱を見せてくれたプリンちゃんの圧に圧倒されながらも、私もできる限りのことをしなきゃと考える。
お店の外装に接客、宣伝なんかもしないとだよね。私たちの目標は優勝何だから!
「てことで、早速設営に行こうぜ。プリンアラモードは大方完成形になってるし、店の準備の方が大事だろ」
「任せて、私が最高のお店にしてあげる!」
「頼りにしてるぜ」
プリンちゃんとそんな話をしながら私たちは店を後にする。
スイーツマジカルフェスティバルの会場は、シュガリーの中心部にある王城『ショコラティエ』から伸びる大通りに、出店形式で出店するものになる。
プリンが前にいざこざを起こして場所を失ったことで再エントリーとなり、王城からかなり離れたパッとしない場所になってしまった。
この大通りは私たちが入国した門まで続いており、王城と門の中間地点には大きな広場がある。その広場ではマジカランドの王族関係者や、様々なイベントが行われるステージが設置されるらしい。
「さて、まぁ外装と言ってもなんだ。大体は店から運んできたこれを設営するだけなんだが、これだけじゃ地味すぎる」
「確かに質素な屋台だもんね」
「最高の屋台にデコレーションしたいってわけだ」
プリンちゃんがお店から借りて持ってきたのは、茶色の屋根のイベント用テントみたいなもの。形自体はそっくりだけど、こっちの世界の材質だから元の世界よりも布感が強い。
組み立てるだけなら女子でも簡単にできちゃうお手軽品だけど、その質感や色合いがめちゃくちゃ地味だし暗い。
このテント自体が店頭販売用に使うために買ったらしく、安さと使用感で選んだからこうなるのも仕方がない。
「じゃあ早速このテントの下半分黄色にするか」
「めちゃくちゃ大胆!?」
「いいだろ。なんか元々茶色だし、下黄色にしたらなんかプリンみたいだろ」
「プリン大好きすぎだよぉ」
プリンちゃんはそう言って事前に持ってきていた黄色のペンキを使って屋根を塗り始める。
これ借り物だったのによかったのかな。なんかこの後ショトさん達に怒られている姿が容易に想像できる。
目の前にいるプリンちゃんはそんなことも気にせずひたすらに黄色のペンキでバシャバシャと屋根を塗り続けている。
「こんなオンボロ屋台の隣だなんて。今年は優勝も余裕かしら」
「あ?」
どこからか聞こえてきたそんな声に、プリンちゃんはまるでヤンキーのような柄の悪い声を出した。
ギロリと光らせた目を振り向かせたプリンちゃんと、恐る恐る振り返った私の目の前には、いかにも貴族と言わんばかりの黒を基調としたドレスに身を包み、銀色の扇子を仰ぎながらこちらを煽る少女の姿がそこにはあった。
まるでチョコを彷彿とさせるブラウンのツインテールは、ふわり柔らかな曲線を描き、少し幼げな顔をより可愛らしく見せていた。
「あなたは」
「カガオーナ、何の用だ」
私の尋ねた疑問は、隣にいるプリンちゃんが答えてくれた。
プリンちゃんにカガオーナと呼ばれた彼女は、それを聞くや否やニヤリと笑った。
「何の用も何も、あなた方の隣に出店するのが、私たちというだけのことですわ」
「くじ運最悪だな。ほんとによぉ」
「そんなにやばい人なの」
「あいつは去年のスイーツマジカルフェスティバルで2位になった優勝候補の1人だ」
プリンちゃんから発せられた一言に、私は開いた口が塞がらないでいた。
今年の優勝候補がどうしてこんな王城から離れた場所に出店することになったんだろう。
「なんでこんなとこにいんだよ。お前らなら広場の優先出店権利ぐらい持ってただろ」
「にが。そんなことして勝って何が面白いんですの。これだから口だけのパティシエは困りますわ。どんな土地だろうと勝つ。それが真の実力というものでしょう?」
「余裕だってか」
「あなたの方こそ。去年の順位はそこそこ高かった気がするのですが、まさか優先権すらもらえなかったのですか?」
「ちょっと色々揉めたんだよ。私だってあんたと同じだ。どこでだって自分の1番美味しいと思うものを提供する。そこに変わりはないさ」
プリンちゃんの言う揉め事。きっと私が仲裁に入ったあの時のことだ。確かに思い返してみればあの出来事も広場近く。もっと早く気がつくべきだった。
私が悩んでいる隣で、2人は熱い火花を出している。
「それじゃあ精々恥じない戦いをしましょう」
「望むところだチョコガキ」
「にが。ほんと、教育がなっていませんわね」
カガオーナはそう言い捨てて隣の出店スペースに帰っていく。
私たちが想定していたよりも、激戦になりそうな予感がしてきた。




