戦争と継承と合掌と
「え、でっか」
私は開いた口が閉まらなかった。
「見てください! ドラゴンの上に誰かいます!」
ガーちゃんがドラゴンに指を指して叫ぶ。私は目を凝らしてよく見ると、見覚えのある男がそこにいるのが見て取れた。
「あれって」
「そうですよね。フィシュタニアを襲ったヴァンパイアに似てます。もしこのままドラゴンがこの国に攻めてきたら」
「そうじゃな、この国はもう崩壊するかもしれんのぉ」
ゲブさんはそう言って私たちが通ってきた道を飛んでいく。
「どこ行くんですか」
「我は数百年のこの関係に決着をつけに行くのじゃよ。あ、それとこれは我からの依頼報酬じゃ」
ゲブさんは甲羅の中に頭を一度しまうと、もう一度顔を出す衝撃で甲羅から何やらペンダントのようなものを出す。
「これ、ペンダント?」
渡されたペンダントはわっかのようなものがついていて、何かがはめてあった形跡があるが、今は何もないただのリングだった。
「我は言っていなかったが占いもできてな。我の占いによればこれが必要になるときがくるようじゃ」
「そうなんだ。ありがと?」
私はせっかくもらったのでとりあえずペンダントを着けることにした。
「じゃあ、色々頼んだぞ~」
ゴブさんはそう言って森の中へと消えていった。
「なんか、よくわからない人だったね」
ガーちゃんは少し呆れたような顔をしてそう言った。
「だね。じゃあ私たちも向かおう。アニマリルをフィシュタニアみたいにするわけには行けないよ」
「でも、どうやって行きましょう。相手は空の上ですし、もう飛び去ってしまってどこに行ったのかわかりませんし」
ガーちゃんが「うーん」と真剣な顔で頭を捻っていると、ザザザザダーンっと何やら木が倒れる音が建物の反対側から聞こえてくる。
「誰か、きた」
私たちの警戒心が一気に高くなる。私は魔法が打てるように身構えながら、恐る恐る音が聞こえた方向へと森の中へ入っていく。
「はぁ、はぁ」
森を少し進んだ頃、疲れたような息遣いが微かに聞こえてきた。
私たちは急いでその方向へと向かうと、そこには一人の男が倒れていた。
「大丈夫ですか!」
「来るな!」
私が駆け寄ろうとすると男はそう叫んで私を拒んだ。男は黒い特攻服のようなものを着ているが、全身ボロボロで、体には穴が開いていた。
「ガーちゃん、回復魔法って使える?」
「一応少しなら」
ガーちゃんは私の問いかけに答えて私と一緒に男に近づく。
「ダメだ。回復魔法は、俺にとってむしろ毒だ」
「あなたは一体なんなの」
男は息遣いが荒くなる。
「俺は、毒の国の王シビレン。俺の体は毒でできてる。回復魔法を使われたら俺は浄化されちまう」
シビレンさんは少し口角をあげながらそう言った。でもどうして毒の国の王がここにいるんだろう。
「どうしてあなたのような王がここに? 野生動物にやられたわけじゃないよね?」
「馬鹿か、俺をやったのは、あの吸血野郎だよ。もう俺は死んじまう。戦争で、負けたんだ。次はこの国で、戦争が始まるぞ」
シビレンさんは空を指さしながらそう言った。そこにいたドラゴンは城の方へと飛んでいった。
「まだ死ぬなんてわからないじゃないですか」
「馬鹿か、自分のことは自分がわかってる。だからこれを、お前たちに託す」
シビレンさんは特攻服の内側からなにやら五百円玉ほどのコインを取り出してこちらに軽く投げた。
「なにこれ」
私はコインを拾い上げる。なんだか見たことない文字が書かれているのが分かる。
「王の証だ」
「王の証!? そんなもの、私たちは受け取れませんよ!」
ガーちゃんが焦りだす。王の証ってそんなにやばいものなの?
「王の証を、誰でもいいから、毒の国の住人に会った時に、渡してほしい。今は滅んだように、見えるかもしれないが、これがあれば、再び国を復刻できる」
シビレンさんの顔色がどんどんと悪くなっていく。呼吸がドンドン細くなる。
「わかった。シビレンさんの意志は、ちゃんと伝える」
「あぁ、頼んだ。カレさんに、森を荒らして申し訳なかったと、伝えておいてくれ」
シビレンさんはそう言い残すと、目を瞑る。すると、液状となり、そのまま蒸発していった。
「やっぱり私、あいつのこと許せない。今度こそは、あいつを倒す」
私は王の証をぎゅっと握りしめると、ポケットにしまった。胸が痛くて熱い。
「シビレンさん、ゆっくり眠ってください」
私はさっきまでシビレンさんがいたところを向いて合掌する。ガーちゃんは何をしているのか分からなかったのか、私が合掌を終えると、「何をしてたんですか?」と尋ねてきた。
「まぁ、私がいた世界のお祈りだよ」
私は城の上を飛んでいるドラゴンを見る。
「ガーちゃん、戦いに行こう」
私たちは城に向かってきた道を走って戻っていく。




