青・龍・襲・来
私たちは深い森を進んでいた。ガーちゃんはまだ少し鼻をすすっているけれど、もう泣いてはいない。私の左手とガーちゃんの右手が指の間までぎゅっと絡まっている。
なんだか恋人みたいでドキドキしてしまう。恋人繋ぎをするなんて前世含めて人生で初めてだ。
「そろそろ森を抜けます。ここからはいつも通り行きましょう」
ガーちゃんはそう言って手を離した。いつも通りのはずなのに、何も握ってない手はなんだか寂しくて冷たかった。
「あれ、建物?」
私たちは少し開けた場所に出た。どうやらこの道は目の前の建物へ行くための道だったようだ。開けた場所の真ん中には豆腐型の四角い建物がある。外壁はツタで覆われており、人が住んでいる気配はあまり感じられなかった。
その建物の右側には池があり、何やら魚も泳いでいるようだ。だが、それ以外は特に何かあるという訳ではなく、周りを森が覆っているばかりだった。
「カナちゃん、とりあえずあの建物に侵入してみましょう」
「行ってみないとわかんないもんね」
ガーちゃんの提案に、私たちは何かが襲ってきてもいいように身構えながら建物へと進んで行く。
「すみませーん。長老のゲブさんはいらっしゃいますかー?」
建物までたどり着くと、ガーちゃんは建物の扉をドンドンと叩きながらそう尋ねた。
「なんじゃね。我を訪ねる者がいるのか」
そんな声が聞こえてきたかと思うと、扉が開かれる。
「えっと、あなたがゲブさん?」
私は目の前に現れた存在に目を疑った。そこにいたのは宙をぷかぷかと浮かんでいるカメの姿があったからだ。大きさの元の世界とさほど変わらない程度の大きさだが、何故か二足歩行のような形で立っている。どちらかといえばお皿のない河童といった感じだった。
「いかにも、我はゲブ。お主らは我に名に用じゃ」
「私たちは冒険者ギルドの依頼でゲブさんにこれを届けにきました」
ガーちゃんはゲブさんの問いかけに、何でも屋のおじいちゃんから預かった孫の手を手渡す。
「これじゃよこれ。やっと戻ってきた。背中が痒くてしょうがなかったんじゃ」
ゲブさんはガーちゃんが取り出した孫の手を速攻で奪い取ると、上手に自分の甲羅をカリカリとかきはじめた。
「ほぉ、気持ちいのぉ」
ゲブさんは顔を赤らめながら気持ちよさそうな顔をしている。確かにカメが甲羅をブラシなんかでゴシゴシされて気持ちよさそうな動画を見たことがあるけど、あれって本当だったんだ。
目の前で気持ちよさそうになっているゲブさんを見ていると、なんだかこちらも少し癒されてしまう。
「ゲブさん、私たちゲブさんに聞きたいことがあるんです」
私はゲブさんにそう尋ねると、少し嫌そうな顔をしながらも「なんじゃ」と答えた。
「森が叫ぶようになったきっかけを知りたいんです。この国付近の森以外ではこんなことは起こっていないのに、どうして森が叫ぶなんて現象が起きるんですか」
私の問いかけに少し「うーん」と悩んだ後、「話が少し長くなるがいいか」と尋ねてきたので、私は迷わずOKした。
「これは数百年前の話じゃ、まだこの国が動物の国だった時、この国を治める者は我含めて四人おった。我を含めて四人の王は意見が分かれることもあったが、うまいこと国を治めておった。だが、アニマリル初代国王。つまり前アニマリル国王が反乱を起こした。獣人も国民にしようとしたのだ。だが、一人の王がそれを反対した。長きにわたる戦争の結果。アニマリルが誕生し、その王は国外へと追放されてしまったのだ」
「え、ゲブさん王様だったの!?」
あまりにも衝撃的なことが明かされてしまった。確かに長老って凄そうだけど。
「昔の話じゃよ」
ゲブさんはめんどくさそうに私の反応を受け流した。
「じゃあ、その反対した王様が原因ってこと?」
「ぎゅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私がそう尋ねた時、そんな鳴き声が上空から聞こえてきた。
「遂に来てしまったか、彼がすべての原因じゃ」
私たちが空を見上げると、そこには青き龍が泳いでいた。
「青龍のブルーラ。我らが動物の国、四聖獣の一匹じゃよ」




