今日から字名は
私たちは一旦城へと戻ると、城を通り抜けて森の中へと足を踏み入れた。
「なんか森の中っていうのも久しぶりな感じがするね」
「そう、ですね」
森の中に入っても、ガーちゃんが元気になることは無かった。ガーちゃんはただ地図を見ながら歩いているだけだった。
「カンナちゃんは、どうして危険なことに自ら突っ込んでいくんですか。昔からそうです。一人では危険と言われている森の中に突っ込んで行ったり、一人で魔物の群れと戦ったり。私が心配していることも忘れて」
ガーちゃんは突然立ち止まると、下を向いてそんなことを言った。私はただ、ガーちゃんを見ていることしかできなかった。
「カンナちゃん、もうやめませんか。このままこの国でも、フィシュタニアでもいいです。そこで二人で暮らしましょう」
ガーちゃんは泣いていた。私の胸倉をつかんで必死にそう訴えかけてきた。
「ガーちゃん……」
私は少し、悩んでしまった。このまま、ガーちゃんと二人でスローライフを過ごすのもいいんじゃないか。戦えと言われたわけでもない。自分の中で終わりと決めたらいつでも終わることができる。でも、私はそれでも、まだ終わらせたくは無かった。
「ガーちゃん、私はね。嬉しかったんだ。フィシュタニアの人たちにありがとうって言われたのが、だから助けたいって思っちゃう」
だから、ちゃんとガーちゃんには伝えなきゃいけない。一緒に旅をしてくれるガーちゃんだけには、何も隠したくない。
「私、さ。多分ガーちゃんが知ってるカンナじゃない。私は元々、別世界に生きていたんだ」
「どういうことですか、それ。私、聞いてないです」
ガーちゃんは明らかに取り乱していた。確かにそうだ。友人が急に人格だけ別人でした。なんて言われたら意味も分からなくなる。
「私は別世界の、日本という国から来た。記憶喪失っていうのも、別の世界からきた別の人格だから覚えてないだけ」
「そう、なんですね。そっかぁ、やっぱり、カンナちゃんじゃなかったんだ」
「どういうこと?」
ガーちゃんは膝から崩れ落ち、必死に泣くのを我慢しながら話をつづけた。
「カンナちゃんが目覚める数日前、カンナちゃんはジークの目をかいくぐって私の元にやってきて言ったんです。綺麗な花を見つけたから見に行こうって私を連れて森に行こうって誘ってくれたの。でも、その夜、魔物の量が多くて、私をかばったカンナちゃんは意識不明の重体でずっと眠っていたの」
そう、だったんだ。きっと私は死んだカンナの体に魂だけ転生した。ガーちゃんはカンナが傷つく姿を見ているから危険なことには首を突っ込ませたくない。全部、繋がった。
「じゃあ、あなたはカンナちゃんじゃないんだね」
「そう、なるね。なんかずっと隠しててごめん」
私はそんな顔をしていいのかもわからずに頭を下げて謝った。
「少し、受け入れるには時間がかかるかもしれない。でも、なんだかホッとした私もいるの」
ガーちゃんは胸に手を当てながら話を続ける。
「ずっと、カンナちゃんが危ない目に合うのは怖いと思ってました。あの時みたいに傷ついて、そのままいなくなっちゃうんじゃないかって。でも、カンナちゃんじゃないなら、きっと前みたいなことにはならない。今のカンナちゃんは、私のことを守ってくれたから」
目元に大きな水の粒を作りながら、ガーちゃんはそう言ってこちらに笑顔を向けた。
「私は、転生する前は本当に何もなかった。趣味も、友人も、得意なことだって何もなかった。でも、この世界に来て、友人ができて、人を助けられて。私の生きる理由、私の色を見つけられた。だから、私が守りたいものを守りたい。それが今の生きる理由」
私はガーちゃんにしっかりと自分の気持ちを伝える。
「ガーちゃんの気持ち聞いたら、尚更強くなろうって思えた。もうガーちゃんの前からいなくならないように」
ガーちゃんは顔を手で覆って泣き出してしまった。少し申し訳ない。
「それで、なんだけどさ。冒険者カードとかはカンナで作っちゃったし、カンナって名前で生きていくつもりだけど。ガーちゃんにあだ名をつけてもらいたいんだ。ほら、私はガーちゃんって呼んでるし」
ガーちゃんは必死に涙をこらえると、唇に力を込めて懸命に動かした。
「カナ。心が変わったから、真ん中の文字を取ってカナっていうのはどう、かな」
「カナ。ガーちゃんから呼ばれる特別な名前。今日から私はカナ!」
私は泣きながらガーちゃんを抱きしめると二人して笑いながら泣いた。
「それじゃあ、依頼を終わらせましょう」
ガーちゃんは立ち上がり私の手を握る。
今日から私は新しい自分だ。




