二日目のカレーは美味しい
辛すぎるカレーのせいで口がピリピリとする中、その日はなんとか眠りにつくことができた。
「ん、んあぁ。ガーちゃんおは、よ!?」
私はガーちゃんに朝の挨拶をする。しかし、私は忘れていた。このベッドはダブルベッドであるということを。
「ん、ん。まだ食べられますよ~」
そんな可愛いらしい寝言を呟いているガーちゃんの顔は、私の顔と僅か数㎝ほどしか離れていなかった。
私、動いたらキスしちゃうよこれ!?
動けない。だけど動かなければガーちゃんの反動でキスしてしまう場合もある。詰みに近い状況だ。体はまるで抱き枕のようにガーちゃんにガッチリ抱きしめられている。
「ガーちゃん、起きてぇ」
私は手首を何とか動かし、ガーちゃんの体を揺さぶる。このままでは本当に一線を越えてしまう。
は、初めてはまだ早いよぉ
「ん、あぁ、おはようございます。カンナちゃん」
カンナちゃんは寝ぼけたような声で目を開けると、ごにょごにょと声を溢した。
「ん、す、すみません!」
事態の状況に気がついたのか、ガーちゃんの顔はどんどんと赤くなり、慌てたように私から距離を置いた。
「大丈夫だよ。ガーちゃんすっごく気持ちよさそうに寝てた」
「うぅ、恥ずかしいです。久しぶりのベッドだったのでつい気が緩んでしまいました」
ガーちゃんはお姉さん座りで赤くなった頬を両手で抑えている。
「でも、もう少しで、その、キ、キスしようだったからこれからは気をつけてほしいかな」
私はガーちゃんから視線を逸らしながらガーちゃんに伝えた。
「も、もう言わないでください!」
そう叫んだガーちゃんの方を見ると、顔を両手で覆い隠していた。頭の上から湯気が出ていそうなガーちゃんの姿に、普段見ないギャップに少しドキッとしてしまった私がいた。
「おはようございます。朝食の準備ができましたのでお呼びに参りました」
熱くなった私たちの空気は、ヒカゲさんがモーニングコールに訪れるということで冷やされることになった。
カレンさんが作った朝食は、二日目のカレー。昨日の残り物というやつだ。またあの辛さを覚悟したのだが、これが全然辛くない。むしろちょっとスパイシーなカレーという感じで美味しい。
カレンさん曰く、「カレーは二日目が本番なのよ」だそう。これは確かに二日目だけ食べたい。
私たちが朝食を食べ終わると、カレンさんは私たちに「これを着なさい」と白い服を押し付けてくる。
「これ、本当に借りちゃっていいんですか?」
ガーちゃんはカレンさんに押し付けられた白いフリルがついたドレスを握りしめていた。
「二人の服、相当洗ってないだろ? せっかくアニマリルにきたんだから洗濯もすましちゃった方が後々いいだろう?」
「そうですけど。ここまでしてもらうわけには」
ガーちゃんがそう言うと、窓が強風に煽られてガタガタと揺れる。
「確実に森の叫びは大きくなってる。急いだって出られないんだ。贅沢していいって言ってるんだから人からの善意は受け取っておきな」
「そこまで言うなら、ありがとうございます」
「それじゃあ着替えておいで」
カレンさんはそう言って私たちを部屋に戻す。
「カレンさん、すっごく優しい人だね。優しすぎてむしろよくわからないよ」
私は部屋に戻る道中でガーちゃんにそう溢す。
「でも今はその優しさにあやかってもいいかもしれませんね」
ガーちゃんとそんな話をしながら、私たちは部屋に戻って着替えを済ませた。