ルールと王
「止まって!」
私は、前から人の隙間を縫ってこちらに迫りくる少女にそう言い放った。しかし、少女の凍り付いたような、まるで感情のないような顔は変わることは無かった。
「うわ! ちょっ待って! 私敵じゃないよ!」
まるで私をあざ笑うようにぶつかるギリギリのところをするりと避け、ニヤッと笑って走り抜けていった。
「カンナちゃん。どうして彼女にこだわるんですか。国に歯向かう行為ですよ!」
「でも、奴隷なんて、ひどいよ」
ぺチンッ!
乾いた音と共に、私の左頬に痛みが走った。
「カンナちゃん、国には国のルールがあるんです。私たち部外者がどうこうできるものじゃないんです。私はカンナちゃんが捕まる方が嫌なんです。だから諦めてください。私たちは私たちのやるべきことをしましょう」
こんなに怒ってるガーちゃん、初めて見た。たしかに、ガーちゃんの言う通りだ。これまでは私の勢いで奇跡的に解決できていただけで、たくさん国があるんだからそういうことだってあるんだ。
「わかった。じゃあ城まで案内してもらおう」
「わかったのだ。ついてくるのだ」
十五分ほど歩いただろうか、目の前には白く大きな城壁があった。外観はまるでタージマハルのようだった。
「この中にアニマリル女王、カレ様がいらっしゃいます。基本客人を招くことを好んでおりませんのでご無礼があるかもしれませんが申し訳ございません」
そう言って深々と頭を下げるヒカゲさん。なんか王様にあっていいのかなこれ。
「僕はここらへんで失礼するのだ」
そう言い残して去ろうとすると、ヒカゲさんに担ぎあげられる。
「逃げちゃいけませんよ。そもそもあなたのせいでこうなっているわけですから」
「離すのだ~。会いたくないのだ~」
どんだけ怖い人なの!?
私は内心ビクビクしながらヒカゲさんについていった。
「カレ様、シゲル様を連れ戻してまいりました」
城の中、最深部にある大きな扉をノックしたヒカゲさんは、中にそう問いかける。
「そうか、入ってよい」
中からは少し大人びた声が聞こえてきた。大きな扉はゆっくりと開かれた。
「おや、そちらの可愛らしいお嬢さんたちはどちら様かな?」
扉の先には緑色のドレスに、金の玉座に座り、肩下ほどの白い髪は遠目からでもさらさらしていることが分かる。紫色のアメジストのような瞳は何か引き込まれてしまいそうなほど美しかった。
「カレ様、彼女たちはアニマリルの外へと逃亡したシゲル様を連れてきてくださった方々です」
「ほう、とりあえずシゲル、お前は馬鹿か?」
カレさんは笑顔でシゲルに尋ねるが、その目は笑っていなかった。怖い。
「森に飲み込まれたらどうするんだ。この時期の試練なんだから国内にあるに決まっているだろ。私を心配させないでくれ」
その言葉に本当に親なんだなと言うことが伝わってくる。
「さて、シゲルを連れてきたお礼と言っては何だが、お嬢さんたちが聞きたいことに答えよう」
カレさんは少し優しげな表情で私にそう尋ねてきた。
「この国のルール。奴隷について教えてください」
「ほう……」
怪しげな言葉を溢しながら、カレさんは少し笑った。