ひよっこ王子とひよこ騎士
「店主、一番いいのを頼む」
少しかっこつけたような雰囲気でシゲルは注文をすると、店主と思われる二メートルほどありそうな巨大な鶏が大きな羽を起用に使ってメモをとっている。
「お嬢さん方に恩が返せそうでよかったのだ。ここの卵料理は絶品だから楽しみに待っているのだ」
シゲルは嬉しそうな笑顔で私たちにそう言った。隣を見るとガーちゃんもワクワクとした顔をしているので安心する。
「王子はいつもこんなすごそうなお店で料理を食べてるの?」
大きな卵の看板があった外観からは想像できないフルコースが出てきそうな雰囲気をする店内が広がっていた。テーブルには綺麗に白いクロスが惹かれ、天井からは綺麗なシャンデリアが輝いている。私たちの場違い感がすごい。
「たまにくらいなのだ。いつもは城で済ませてしまうのだ」
「こういう話を聞くと本当に王族なんだなって思うよ。シゲルはすごいんだね」
「エッヘンなのだ」
嬉しそうに胸を張ると、拳でドンっと胸を叩いた。
「見つけましたよ、王子」
店の扉の方から声が聞こえた。そこには重たそうな銀色の鎧を着ている鶏がいた。左側には剣も携えている。
「な、なんでバレたのだ」
「王子はこのお店が好きですからね。どうせ試験をサボってここにでもいるのでしょうと王と話していたのです」
羽で身振り手振りしながら話す姿にどこか可愛げがある。あの毛並みをモフモフしたい。私が目をとろけながら気持ち悪く手をモフモフしながら見ていると、キリっと鋭い視線が向けられる。
「こちらの方々は?」
「私はカンナでこちらがガーちゃん、あ、ガーネット。いろいろあって今は旅をしている最中なの」
「ほう、旅人さんでしたか。この時期に来る方は珍しいので少し驚きましたが、ぜひともアニマリルで楽しいひと時を過ごしていただきたい」
紳士的に対応してくれる鳥さんはそう言い終わると私たちに会釈した。
「あの、えっとお名前をお尋ねしてもいいですか?」
流石の私でも初対面の人を鳥さんと呼ぶ勇気はないし、鳥さんなんて呼んだ暁には店の中の店員の鶏が全員こっち向きそうで怖い。
「すみません。申し遅れました。私、王子のボディーガードをさせていただいております。剣士のヒカゲと申します。剣士としてはまだひよっこですがなにとぞよろしくお願いいたします」
王子からはやはり聞いたことのない丁寧な口調で自己紹介をされるものだから驚きが隠せない。
「ヒカゲさん、少しお尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
自己紹介を終えたヒカゲさんに対してガーちゃんが真剣な顔で質問する。店員さんが私たちの前に料理を運んでくる。
「何かね、ガーネット殿。私に答えられることであればお答えしよう」
紳士的な姿勢を貫くヒカゲに対し、隣でシゲルは料理に目を輝かせていた。
目の前に置かれた料理は卵焼きだ、これがまたつやつやとしていて輝いている。よだれが垂れそうだ。
「森が叫んでいる、というのはどういう意味なんですか?」
私も疑問に思っていたことを聞いてくれるガーちゃんにありがとうと思いながらも私もその話を聞く。
「このあたりだと梅雨が近づく頃になると森が活発に動き出すんです。道は歪み、森は波打つ。これに巻き込まれたらたいていの生物は死んでしまうでしょう。お二人は今梅雨が来るまではこの国から出られなくなったといえばことの重大さが分かってもらえると思います」
ヒカゲさんからの衝撃的な一言に、私は唾を飲み込んだ。