王子と玉子
「僕の名前はシゲル! アニマリルの王子だ!」
シゲルと名乗ったその少年は腕を組みそう叫ぶ。その叫びに共鳴したのかざわざわと茂みが騒ぎ出す。威厳を見せようと必死になっているがまだ小学生程度の見た目なのもあってかっこいいよりも可愛らしいの方が強い。
「王子様? 王子ってあの王子だよね?」
「そう! あの王子なのだ!」
声のキーが高いため可愛らしい声でそう言うシゲルは、まだえっへんと腕を組んだままだった。
「王子様がどうして国外の森にいらっしゃるのですか? アニマリルの王族はその血筋から獣と会話ができると聞いていますが」
ガーちゃんは不思議さと真剣さが混ざったような顔でシゲルのそう尋ねた。
確かになんでまだ国にもついていないのに王子様がこの森の中にいるのだろうか。というか動物としゃべれるの!? いいなぁやっぱり憧れるじゃんペットと会話するの。
「ジャガーンに襲われてたせいで目的を完全に忘れてたのだ。僕はアニマリルの王になるための試練を受けるためにここに来たのだ」
「ジャガーン? 試練? わからないことだらけだよ」
頭の中が渋滞しそうだ。異世界知らないこと多すぎて脳みそが後5個くらいほしいなって思う時がある。これは結構ガチ。
「ジャガーンはさっき王子様が追いかけられていた獣の名前です。アニマリルは獣との共存国、アニマリル周辺で暴れまわる動物は少ないはずなんですが」
ガーちゃんは優しくジャガーンについて説明してくれる。
前から思ってたけど名前が元々の世界の言葉に似てるんだよね。そこらへんは本当に謎だけど。神様が分かりやすくしてくれたのかな。
そんなことを考えている間に森はざわざわと騒ぎ始める。
「森が叫んでいるのだ。今日は一旦帰った方が良さそうなのだ。お二人もアニマリルに急いだほうがいいのだ。ついててくるのだ」
シゲルに言われるがまま急いでアニマリルへと走って行く。どんどんと森のざわめきは増していく。
「あそこの塀の中に入れば安心だなのだ。急ぐのだ」
目の前には何十メートルもの高さの切り株のようなものがあり、亀裂が走っている部分に国の門が設置されていた。
「シゲル第一王子、そして二人の来客者様、急いでください。もうじき森が暴れだします」
門に立っていた兵士にそう言われ、そのまま中に入る。塀も近くで見るとより切り株であることが分かる。
一体どうなってるんだこれ。異世界って感じはするけど。
切り株の中は木で作られた家が建てられており、綺麗に整備されている。
「ここまでくればもう安心なのだ。安心したら急にお腹がすいてきたのだ。よくお父様と行くお店に案内してあげるのだ」
こうしてシゲルに再び連れられて街中を進んで行く。
すごいよ! 獣人だよ! 耳が! 動物の耳が生えてるよ!
通り過ぎる人のほとんどが、何かしらの動物の耳を生やしている。そして普通のことのように街を動物たちが歩いている。
「ついたのだ。ここがエグラムールという玉子専門の店なのだ!」
目の前には大きく卵が描かれた看板が立っている。シゲルは自慢げにドアを開けると、中からはおいしそうなにおいが漂ってきた。